10/09の日記

20:09
一瞬の終わり(創作:蝉と蝶)
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「……交尾して死ぬだけの生きざまなんて御免だと思って旅にでたんだ。寒い冬も越えてひたすら一人で北上してきた。色んなものを見たし色んな奴に出会ったよ」
「……」
せっかく蝶が話をしてくれてももう僕には相槌を打つ元気もない。意識がすぅっと遠くなっていく。ああ、死ぬのかな。

こわい。

「色んな奴に会ったけど、お前が…お前が一番面白くて良い奴だった!」
旅のせいなのかボロボロな羽根を震わせて蝶が言う。なんだよ、面白いって。良い奴って。
「もっと、もっと、話したかったし、出来たら一緒に旅をしたかった!」
それは、無理な話ってやつだ。
「なあ、俺と行こうぜ?なあ、なあったら!!」
僕だって出来るならそうしたいよ。だけど、もう駄目みたいだ。意識がどんどん落ちていく。

こわい。し、悔しい。子孫を遺せなかったからとかじゃなくてただこの一瞬自分の体が動かないことが。僕には言わなくちゃいけないことがある。蝶に。

動け、動け!あと少し、一瞬で良いんだ!まだ死にたくない!死ねない!


「あ、り……」
「え?」
そんな思いが叶ったのか僕の口は何とか動いた。
「ありがと、う」
本当は君に会えて良かったとか、色々ごめん、とかもっと言いたいことがあるんだけれどもう僕には出来なかった。

「………」
「ッ!おい!おい!」

ミーン、また遠くで誰かの声がした。僕のことを呼んでいる気がして返事をしに僕は飛んでいった。

-end-

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