book(BL/GL)
□僕等の引力
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その日は偶々帰りが遅くなった。
ただの偶然。
それまで言葉を交わしたことも無く、気にも留めていなかったクラスメイトの湯浅と、教室で二人きりになった。
帰り支度を済ませて、椅子から立ち上がろうとした俺の足に、不意に何かが当たった。
…コンッ…。
『…消しゴム?』
転がってきた方向に何気なく視線をやった瞬間、目が合った。
俺の足下で消しゴムを取ろうとしゃがんでいた湯浅を、俺が見下ろす形になる。
初めて直視したであろうその瞳は、くるんと大きく真っ黒で、
『…子犬みたい…』
そう思った。
俺は、スッ…とその消しゴムを取ると、湯浅の手に渡した。
「ゴメン、ありがとう」
ニコッと笑うと、湯浅は俺の前から立ち去ろうとする。
………あ、
「…家、何処だっけ?」
気がつくと、俺はそう口にしていた。
何故そう思ったのかはわからない。ただ、遠ざかっていくその背中を見て、
『このまま終わらせちゃけない…』
そんな気がしたんだ。
初めて言葉を交わしたその日、俺たちは下校を共にした。