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□That summer reminds me of ...
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あの夏
もう一度君に会いに行く
「父様!」
甲高い子供特有の声が響く。声のしたほうを見ると、幼い我が子が自慢の美しく長い黒髪を揺らしながら駆け寄ってくる。
「どうした?何かあったかい?」
「父様、聞いて!あのね!」
「よしよし、まずは落ち着こうか」
愛しい我が子を抱き上げぎゅっと抱きしめる。柔らかく、甘く、若く、眩しい命の香り。
「あのね!母様がお茶の時間だから父様を呼んでって頼まれたから走ってきたの!」
「そうかそうか、もうそんな時間だね。ありがとね、わざわざ」
「ううん!父様も母様も大好きだからいいの!」
「俺も大好きだよ」
また愛しい我が子をぎゅっと抱きしめ額と額をこつんと寄せる。我が子はきゃあきゃあ言いながら父様大好きーと抱き着いてくる。
「じゃあ、母様のところに行こうか」
「うん!」
娘の手を引き、我が家へと歩く。
季節は夏。ここはひまわり畑。俺達はひまわり畑のすぐ側の家で暮らしている。
娘の手を引き、美しいひまわり畑の中を進んで行く。夏の午後の昼下がり、ひまわりの手入れをしていた俺に駆け寄ってきた愛しい我が子。
まだ小さく柔らかな手を繋ぎ、俺の手を嬉しそうに繋いでいる娘を見る。
愛しい彼女との間に生まれた大切な大切な娘。
しばらく歩くと我が家と愛しい彼女が見えてくる。
「おかえりなさい、二人とも」
ゆったりとした笑顔で迎えてくれた美しい彼女。娘と同じ長く美しい黒髪、よく似た美しい顔立ち。
「ただいま母様!」
娘は俺の手を離し、母親へと駆け寄っていった。
ぎゅっと母親に抱き着き大好きと呟いた。
彼女もぎゅっと抱き返し私もよ、と言った。
「母様、今日のおやつはなあに?」
「あなたと父様が大好きなおやつよ」
「えーなあに?父様わかる?」
「ん?あれだろう?今日はマドレーヌだろう?」
匂いでわかる。今日のこの匂いは彼女が焼いた特製マドレーヌだ。
「ええ、さすがですね。今日はマドレーヌです。さあ、お茶にしましょう」
彼女は庭のテラスに移動し、冷えたアイスティーをグラスに注ぐ。
椅子に座り、俺は彼女の美しい所作を見ている。
風になびく美しい黒髪。
涼しげなアイスティー。
甘いバターの香りのマドレーヌの匂い。
愛しい娘の風にひらめくワンピース。
どこまでも続く美しいひまわり畑。
輝く太陽、真っ青な空に白い入道雲。
愛しい彼女、愛しい娘。
俺達だけの麗しい楽園。
全てが幸せの象徴。
ああ、
あの夏
もう一度君に会いに行く
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