Main

□愛のかたち
1ページ/2ページ



**愛してくれますか**

「どうして皆本当の俺を愛してくれないんだろう」

ベッドで寝転ぶ俺の親友はぽつりとそんなことを呟く。

「そりゃお前の顔は理想の王子様フェイスで頭も良くて高学歴で性格も優しい常識人だからだろ。おまけに恋愛にがつがつしてない。完璧だろ」

「女の子にとって俺はアクセサリーみたいなもんなんだよ。だからいつもすぐ飽きて捨てられる」

切なそうに悲しそうに親友は言った。悲しそうに笑った顔も理想の王子様フェイスだ。

「でも、お前には一個だけ他の人には驚かれることがある」

「………女の子よりどっちかというと男が好きってこと?」

「そう。それがお前の一つだけ驚くこと」

こいつは女の子にとっては全てが理想の王子様なのにゲイよりのバイなのだ。俺も最初は驚いた。でも別にたかだかそんなことで親友をやめるだとかそんな馬鹿なことはしなかった。

しかも、親友は男を好きになって告白すればいいのに奥手でフラれたら怖いという理由で何にもしない。

「そんでお前を好きになる男もお前の顔目当てか」

「うん……で飽きたらポイされる」

はあ、と思わずため息をついた。親友は相変わらずベッドに寝転がり天井をぼんやり見ている。長くて影になるほどのまつげ、綺麗な肌、形のいい唇、染めたことのないさらさらの黒髪。男も女もほうっておくわけがない。

「お前さ、そんなに愛されたいの?」

「そりゃあ愛されたいよ」

「じゃあ俺がお前を愛してやるよ。俺なら本当のお前も知ってるし、お前のいいところは顔だけじゃない」

言ってから驚いた。
親友には別にそんな気持ちはことさらない。ただ、ほんの少しだけ切なく、愛しく思ったのだ。俺は男と付き合ったことなんて一度もない。

「………それ本当?本気?たしかに俺のこと一番よくわかってくれてるけど、男好きじゃないじゃん」

「冗談でこんなこと言うかよ。自分でもすらすら言葉が出てきて驚いてる」

そう言ってベッドから起きて俺を見ている親友の手を引っ張って強く、強く抱きしめた。

抱きしめた親友は小さく奮えていた。
嬉しい、と小さく呟いて泣いていた。





**山吹**

ずっとそばにいてほしい

あなたは私にそう言った。優しく、愛を確認しながら。あなたにそう言われるだけで私は嬉しくて嬉しくて幸せでそれだけで生きていけるそう思っていました。

優しいあなた。いつも私を一番に想ってくれて、未来永劫ずっと一緒だとそう誓ってくれた。

でも、でも。
駄目なんです。ずっと一緒にはいられないんです。未来永劫一緒にはいられないんです。

ごめんなさい。
ごめんなさい。
あなたにずっと一緒だと言って。
嘘をついてしまいました。
私の最初で最後のあなたへの嘘です。

あなたが大好きです。
ずっと一緒にいたい、未来永劫あなたと同じ世界を同じ未来を見ていたい。
あなたから離れたくなんかない。あなたの悲しむ顔なんて見たくない。涙なんて見たくない。

それでも、私はあなたのもとからいなくなりましょう。

あなたの重荷にならないように。
あなたの枷にならないように。

ごめんなさい、ごめんなさい。
こんな私を許して下さい。

あなたを愛している気持ちに嘘はありません。

私は未来永劫あなた以外の人を好きになることはないでしょう。




**そばに**

ただ俺のそばにいてくれるだけでよかった

他の誰が何と言おうとお前は俺のそばにいてくれるだけでよかった。

お前は俺の重荷なんかじゃない。
お前は俺の枷なんかじゃない。

どうして自分一人で全部抱えこんでいなくなってしまったんだ。俺はそんなに頼りない男だったかい?お前を不安にさせるような男だったかい?

お前がいなくなってから俺はずっと探し続けている。お前を見つけたらまたあの日のように俺に笑ってほしい。

謝りたい。抱きしめたい。気づいてやれなくてごめん、と。悪いのはお前だけじゃない。俺が力足らずだったから、お前を守ってやれなかったから。

いつも俺を待っていてくれた。どんなに遅くなっても帰れない日が続いても、家にいて待ってくれていた。
お前が俺のもとからいなくならなきゃいけない原因で一人泣いていたのをどうして気づいてやれなかった。

俺はたかをくくっていた。どんなことがあろうとお前は未来永劫ずっと一緒にいるんだと思ってた。俺のもとから離れることなんてないんだと。


何百年、何千年経とうと俺はお前を探し続ける。


もう聞いてはくれない彼女への懺悔。

もう二度と会えない愛しい人への言葉。

月が暗い雲に隠れるように、残された彼の懺悔も言葉も闇に消えていった。






**想い人**

俺の彼女には俺以外に想ってる人がいる

そんなこととうの昔に気づいてた



高校時代。
彼女と出会い彼女と過ごした場所だ。いい思い出も悪い思い出もある。でもいい思い出のほうが多かった気がする。
思い返すと彼女ともう一人の女性の顔が思い浮かぶ。

彼女の親友だ。正確には元親友。いつも仲良しで二人でいてまるで姉妹のようだった。何でも話せて気が合って、将来もずっと親友だと約束してたらしい。

彼女が日に焼けた茶髪のショートヘアの活発なスポーツ少女だとしたら、親友は真っ黒なストレートヘアのどちらかと言えば図書室が似合う人だった。

でもある日、それは些細なことで崩れてしまう。

二人の共通の友人とのいざこざとすれ違いで二人は決別してしまった。
そしてその仲は二度と、未来永劫戻ることはなかった。
お互い卒業するまで口すら聞かなかった。

彼女は悲しいと泣いていた。
些細なことで大切な親友を失くしてしまったと。彼女は、親友は二度と私に振り向いてくれないだろうとそう言って泣いていた。



それから卒業して、俺達は大学生になっていた。彼女とはずっと付き合っていていつか結婚したいと思っていた。彼女も結婚したいと言ってくれていた。

彼女と一緒に過ごしている何気ない時。ふとした時に彼女が見せる俺には見せない顔。憂いを帯びていて、悲しい切ない顔。それはほんの少ししか見せないけれど、俺にはわかる。きっと親友のことだ。彼女はきっと今も想い続けているのだろう。
特別な人。俺じゃない違う特別。
彼女は俺がその想いに気づいていないと思っているのだろう。

彼女がアドレスを変えた時、親友のアドレスには送れなかった。
親友はきっととっくの昔にアドレスを変えていたのだろう。彼女には送らないで。
彼女はもうこれで親友と自分を繋ぐものは無くなったと、寂しそうに言った。
そして一人、雨空を眺めていた。



それからまた時は経ち、俺達は結婚した。
幸せだった。ずっと一緒になりたかった人と一緒になれた。なんという幸福なことだろう。

彼女の実家には花束が届いていた。
彼女の大好きな黄色や黄緑をふんだんに使った花束。差出人はわからない。ただメッセージには「ご結婚おめでとう」と書いてあった。
俺にも彼女にもすぐにわかった。
彼女はとても嬉しそうに花束を抱きしめ、綺麗な花瓶に早速飾っていた。枯れかけたら彼女はドライフラワーにしようと言っていつまでも飾っていた。



また時は経ち、俺達はすっかり年老いていた。

あれから子にも恵まれ本当に幸せな日々を送っていた。子供達も独立し、また二人きりに戻っていた。

年老いた俺達は昔話をするようになった。
出会ったこと、初デート、学校、大学、何でもいいから話した。
もちろん、親友のことも出てきた。彼女は懐かしそうに、それでまた憂いを帯び切ない顔をした。彼女は今でも気持ちは変わってないのだ。



また時は経ち、彼女は俺を残し一人逝った。

最期まであの憂いを帯びた切ない顔だった。

目を閉じるとあの日が蘇る。高校時代、彼女が幸せだった時。永遠に色あせることはない思い出。

きっと親友は彼女の半身だったのだろう。そして彼女の半身は親友だったのだ。

今となっては彼女に聞くことはできない。

けれど俺もまた彼女の半身であるから聞かなくとも答えはわかっているのだ。



`
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ