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□君は今も綺麗だ
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同窓会。
行こうか迷っている。
別に行きたくないわけじゃない。

昔の仲間に会いたいし、みんな何をしているのか気になる。

みんな、大人になったのだろうか。

高校時代。
いろんなことがあった。
楽しいことも、苦しいことも辛いことも。

仲間と馬鹿騒ぎして怒られた日。
彼女が出来てうかれて舞い上がった日もあった。
テストが近くてみんなで勉強して良い点を取ったり取らなかったり。
仲間割れして悩んだ日もあった。

みんな、元気なのだろうか。









高校時代、俺には好きな男がいた。
もちろん俺はノンケだし、あいつもそうだった。

あいつはいつも一緒にいるグループの一人で、馬鹿騒ぎする時のストッパー役だった。

クールで知的な頭のいいやつだった。情に厚く、信頼されていた。
男として格好よかったけれど、どちらかと言うと綺麗な男だった。

あの頃、俺には彼女がいたしあいつも彼女がいた。
彼女は凄く優しくていい子で大好きだった。

なのにどうしてだろう。
なんで好きになったのか不思議でたまらない。

彼女とは別に倦怠期でもなかった。

思春期の男だからセックスしたいとは思っていたけれど、何故かあいつとはしたいとは思わなかった。おかずにしたこともなかった

ただ、静かにあいつのことが好きだったのだ。







ある日の放課後。
いつものように仲間といて、みんな用事があるといって帰ってしまい、俺はあいつと二人きりだった。

教室に二人きり。

授業で出された宿題を家でやりたくなかったから二人で黙々と終わらせていた。

だんだんと飽きが出始めていた時に、あいつがおかしなことを言い始めた。

「…なあ、お前はキス得意?」

「…は?何、お前苦手なの?」

「実は…あんまり上手くないと思う。彼女は言わないけど、俺はあんまり上手いと思ってないし、彼女だってきっとそう思ってると思う」

「ふーん…で、お前はどうしたいと思ってるの?」

「そりゃ、上手くなりたいと思ってるよ」

うろたえているこいつを見るのは初めてかもしれない。
いつも静かに余裕な感じだから余計そう感じたんだと思う。

「んー…じゃあさ、俺と練習しようよ。俺なら別に気の済むまでしていいよ、アドバイスするし」

「マジ?確かにお前は男としてはそんなにごつくないし、顔もむさくないけど…いいのか?」
「別にかまわねーよ、俺もお前となら全然イケる。ただ、お互いの彼女には秘密で」

「わかった」

本音を言うと興味があったのだ。こいつはどんなキスをするのだろうかと。
まあ、俺もキスはそこまで自信があるとは言えないけれど。

「じゃあ…してもいいか?」

「ん」

そっと近づき、目を閉じる。

頬に手が触れ、そっと抱き寄せられる。唇と唇が重なる。

最初は優しく触れ、軽く口を開け口腔を舐めるように、お互いの舌が絡み合っていく。

そっとあいつが離れていく。

「なあ、どうだった?」

どうだったと言われても、最初から最後まで優しくて、心に残るかと言われたら普通と答えてしまいそうなキス。

「うーん、下手じゃないけど普通すぎ」

「そんなはっきり言われちゃうとちょっとへこむ…」

「だって本当なんだもん」

「…まあ、いいや。ごめん、変なことしちゃったな。忘れてくれ」

忘れるわけないだろ。
人生で初めて男とキスしたんだ。
しかも好きなやつと。





このキスをした時から俺の気持ちは何故か離れていき、いつの間にか普通の友達に戻っていた。

あの時、もしあいつのキスがもっと情熱的で上手くて、俺を腰砕けにさせるようなものだったなら好きなままだったのかもしれない。










「よ、元気だったか?」

「おー久しぶり、お前すっかり老けたなー」

「うっせ、お前なあれから俺達は30近いんだぞ」

「そうだなー早いよなー」

結局、同窓会に来た。
高校時代の仲間と他愛のない話をし盛り上がる。
あれから10年くらい経ったのだ。




少し疲れてロビーでぼんやりと窓から夜景を見ていた。

「お、発見」

この声は、そう思いふりかえる。

「おーやっぱりお前か。どこ行ってたんだよ、探したんだぞ」

話し掛けてきたのは初めて男とキスをした相手だった。

「久しぶり、ごめん疲れたからちょっとロビーで休憩」

「俺もだよーやっぱり楽しいけど疲れるよな」

変わってなかった。
あの時と同じ綺麗な顔だった。大人っぽくなっていた。綺麗な横顔とか長い指とか。

「お前あんまり変わんないな、あの頃と一緒だよ」

お前もな。
何故か声には出せずにぼんやりとこいつの顔を見ていた。

「そーいや、お互いの結婚式以来だよな。奥さん元気?」

「ああ、相変わらず。お前は?」

「元気だよー相変わらずラブラブ」
俺達は三年前お互い結婚した。
結婚式にはもちろん招待状をだした。

「子供ちゃん元気?去年生まれたんだろ」

「毎日めちゃくちゃ可愛いよ、やっぱり女の子は可愛い。お前は男の子だよな?」

「よかった。俺ん家は男の子だよ、毎日やんちゃで大変だよ」

「今度さ、俺ん家来てよ。一緒に遊ばせようよ、大歓迎だよ」

「いいな、それ。でも奥さんに聞いたらね」

「わかった、連絡しろよ」







俺達は着々と人生を歩んできている。
仕事をして、可愛い奥さんがいて可愛い子供がいる。
平凡だけど、一番望んだ幸せ。

俺には男と恋をするという現実が怖かっただけなのかもしれない。

簡単に言えば、若さ故の過ち。青春のひとこま。

でもそれでいいのだ。

あの時、確かに俺はあそこに存在していてあいつも存在していた。







それから二人で抜け出して酒を飲み、子供が可愛いことを話し合い仕事のことやそのほかいろんなことを話して別れた。



俺は暖かい気持ちで大好きな奥さんと可愛い子供が待つ家に帰った。




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