文
□掌中の温もり
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── 二週間後 ──
窓の外は雲一つない晴天。
鳥たちがさえずり、心地よい風がカーテンをなびかせる
「アル!今日もお見舞いに来てやったぞ」
右手に持った茶色い袋をわざとアルに見せつけ、明るく笑いかけるエドにアルは無表情で見つめ返す
あれから毎日お見舞いに来ているが、アルは一度として笑った顔を見せたことがない。
最初は戸惑ったが、二週間もたつとだいぶ慣れてくる
嫌な慣れだ。
それから、少しづつ分かってきた事もある
まず記憶の事。
アルは自分の事も、もちろん俺の事も忘れてしまっているらしい
唯一残っている記憶といえば、事件の全容。
たまにそれを思い出し、ひどいパニック状態に陥ってしまう。
そして感情について。
やはり これも無くなってしまっているようだ。
ただ1つ、『恐怖』という感情を残して。
「アル、食うか?」
ウィンリィが作ってくれたアップルパイをナイフで小さく切り、アルに渡す
すると、コクッと小さくうなずき ゆっくりと口に運ぶ。
「夢をみたんだ。」
「へぇ。どんな?」
「栗色の髪の女の人がいた。
…ぼくは泣いてて、その人がぼくの頭をなでるんだ。
『もう大丈夫よ、恐くないのよ』って。
すごく優しくて、あったかい人だった。」
窓の外を見つめながらゆっくりと話すアルフォンスの顔は、気のせいかもしれないが少しだけ微笑んでいるように見えた。
「そうか。」
自然と笑みがこぼれる
こんな気持ちになったのは久しぶりだ
アルの夢にでてきたのは、きっと母さんだろう
少しづつ、記憶が戻ってきてるんだ。
よかった……
その時。
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