novelB

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揺れる背中を追いかけて、辿り着いたのはこの島で最初にペンギンと来た小高い丘。




町を見下ろせるこの場所はデートスポットなのか、あちこちに恋人たちが集まっている。




「……なんでこんなに人が多いんだ。」



「そりゃあお祭りだもの。今日はどこ行ったって人がいるわよ。」



「…………。」




思い違いだったのか、あからさまに落胆してるペンギンを見ると、繋いだままの手を自分から引っ張る。




「ねえ、あんたまだ島にいたのね。」



「うん。」



「今日出航するんでしょ?こんなとこにいていいの?」



「うん。…でも、明るいうちには出航する。」



「そう。」




自分が気を張ってるのがわかる。
何を考えてるのか、私の方も向かずに、丘の上から町の方角をじっと見据えるペンギンの横顔を見た。




「おれ、ナミにちゃんと伝えて無かった。言わなきゃ、きっと後悔する。だから言いに来たんだ。」




ドキン、と胸がいきなり跳ねた。
言われる事が何かを、私はもうわかっている。




「人がたくさんいるわよ。」



「いいよ、そんなの。言うためにここに来たんだから。」




握られた手の中が湿るのを感じるけど、その原因が自分なのか、ペンギンなのかはわからない。




眩しそうに…、違う、愛しそうに私を見るペンギンの瞳にやっぱり惹き込まれる。






「おれ、ナミが好きだ。惚れちまった。…なんでこんな気持ちになるのか、どうしてこんなに好きなのかわかんねえけど、とにかくナミがすげえ好きだ。」











キラキラしてる。






すごく、キレイ。









真剣に私に想いを伝えるペンギンに、私もちゃんと向き合わなければ。






「…まだ本の代金を貰ってないわ。」



「…は?本?…おれの告白聞いてた?」



「聞いてたわよ。あんたの顔見てたら、代金の事を思い出したの。やっぱり返して。」



「お前なぁ…、人がどんだけ勇気を出したと…。って言うか、おれ財布持ってきてねえし。」




私の頭の中に、ある光景が思い出される。
ついこないだの事なのに、遠く昔の出来事のように。













「私はあんたを信用しない。交換条件にしましょ?何か代わりの物を渡して。」



「!」




ペンギンはきっとわかる。最初に交わした初めての約束。
すぐに意味のわかったペンギンは、私にはにかんでみせた。




首元からネックレスを外して、チェーンをするりと抜くと、指輪を私へと差し出した。




「今はこれしかないんだ。これでいいか?」



「いいわ。…あんたが私にお金を返したら、ちゃんとこの指輪も返す。だから必ず…、必ず返しに来て。」



「うん。…必ず返しに行く。無くすなよ、それ母ちゃんなんだから。」



「約束するわ。」




再び手元に戻った指輪に視線を落としてから、もう一度ペンギンを見た時には引き寄せられて私の顔はペンギンの肩に触れた。




背中にまわされた腕で、もっともっと距離は近くなる。





「あんたに…、いつか指輪を返す時。その時まで、あんたが私の事を好きなままでいてくれたら、その時に返事をするわ。」



「…うん。絶対好きでいる。」



「ふふっ、本当?いつになるかわかんないわよ。」



「好きでいるよ。絶対。」












肩を掴まれたまま体が離れる。
見上げたその先の、キラキラが私を見てる。




少しだけはにかんで、その次は戸惑った顔になって、それから愛しそうに目を細めた。






「…ナミ。」



「いいわよ。別料金ね。」



「…金取んのかよ。」



「ふふっ。」







私は目を瞑る。
ペンギンの、私の肩を掴む手にほんの少し力が入る。
ゆっくりと体温が近づくのを感じて、唇は塞がれた。









「10万ベリーと言いたいとこだけど、特別に5万ベリーにまけてあげる。」



「それは親切にどうも。…高えな。」




私が笑うと、ペンギンも笑った。








「…またね。死ぬんじゃないわよ。」



「そう簡単には死なねえから安心しろ。」



「それは良かったわ。」




子供みたいに澄んだキレイな瞳で、ペンギンは無邪気に笑う。




「じゃあな、ナミ。」






違う海賊のマークを、誇らしげに背中に踊らせてペンギンは歩いていく。




一度だけ振り返って、大きく手を振ったから、私も大きく手を振り返した。
























出航して船は波を掴んで安定した航路へ入った。
仕事を終えたペンギンは、甲板の上に倒れ込む。




だけどその視線は高く空に向けられていた。




「やたら晴れ晴れしい顔だな。」



「そうっすか?」



「ああ。うまくいったのか?」




寝転んだまま、顔だけで船長へと視線を向けるとペンギンは顔を横へ振った。




「でもいいんです。いつかまた必ず会うと約束した。今はこれで十分だ。」




雲一つない青空の下で、ペンギンはそう言って笑った。





END
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