novelB

□R
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ずーんと重い、どよーんと淀んだ空気を背負ってペンギンは再び甲板に突っ伏している。




「…シャチ、次はなんだ。」



「えーと…、今日で最後のはずが、昨日で終了したらしいです。」



「……説明が下手だなお前は…。」




うまく伝わったかはわからないけど、説明下手なりに現状を伝える。それを聞いた船長は、立ち上がって近づくと倒れているペンギンの頭を靴の先で突いた。




「立て。お前がそんなんで出航出来ると思うのか?」



「……大丈夫です。あと5分したら起きます。」



「5分だな。ちゃんと仕事しろよ。」




何かフォローでも入れるのかと思ったけど、船長はそれだけ言うと再び戻って寝ているベポに寄りかかる様に座った。




「やっぱり船長には淡い恋心なんて理解出来ないんだ。」



「仕事は仕事だ。ログが溜まった以上、この島に居続ける理由はない。それとも麦わら屋と揃って出航しろとでも言うのか?」



「そういう訳じゃないっすけど…。」



「大体な…、ああやって落ち込む事自体間違ってるんだ。やるだけやったら、前向きになるもんだ。」




冷たい事を言ってる様だけど、実は案外的を得た事を言ってるのかもしれない。船長なりに心配はしてるのだ。




きっちり5分が経った頃、ペンギンはフラフラと立ち上がると、船長の前に立った。




「すいません。もう平気です。」



「なにが大丈夫だ。生気のない顔しやがって。お前、もう一度女に会って来い。」



「え?」



「もう一度ぶつかって来いと言ったんだ。後悔なんて不様な真似は晒すな。それとも…、もういいって言うなら泥棒猫はおれが貰う。」



「………は?ちょっと待って下さいよ。なんでそうなるんだ。」



「なかなかいい女だったからな。悪くない。お前はもういいんだろ?なら文句を言うな。」




ニヤリと笑って立ち上がり、歩き出そうとする船長の腕をペンギンが掴む。




「ふざけないで下さい。いくら船長でもそれはダメだ。」



「どけ。お前みたいな根性無しより、おれの方がいい。」



「!」




睨み合いをする二人を見比べる。
これが船長の策だとはわかっているけど、もしかして少し本気なんじゃないかという不安も一緒に頭をよぎる。




「偉そうに楯突くなら、やるだけの事をやってからにしろ。たいした事もせずに逃げるんじゃない。」



「船長に何がわかるんですか。」



「見りゃわかるさ。お前がどんだけ情けない面してるか教えてやろうか?」



「…!」



「臆病風を吹かせて、後で泣きっ面を晒す様な事をするな。また会える?…馬鹿馬鹿しい。明日死んだらどうするんだ。今を大切に出来ないやつに新しい風は吹かない。」



「………。」



「誰かがいつもお前の背中を押すわけじゃない。今ここで掴めと教えてくれるわけじゃない。自分がどうしたいのか、このままでいいのか、考えろ。頭ん中でもっともっと考えるんだ。」



「……!」












少しの間をおいてから、ゆっくりと掴んでいた船長の腕を離す。それから、ペンギンは船長に向けて一度頭を下げた。




そしてそのまま、走って甲板を後にした。




「…世話の焼けるやつばかりだな、この船は。」



「船長、それってもしかしておれも入ってます?」



「……シャチを筆頭に世話の焼けるやつばかりだな、この船は。」



「…すいません。」




船長は珍しく穏やかな顔を見せると、腹が減ったな、と言って笑ってみせた。




「船長、さっきの本気じゃないっすよね?泥棒猫はおれが貰う的なあたり。」



「………。」



「…まじっすか。」



「…そんなわけないだろ。おれはペンギンの味方だ。」




ちょっとは考えたのかもしれない、と横顔を見て思ったけど、それを口にするのはやめた。




次にペンギンが船にに戻って来た時には、結果がどうあれ、笑顔が戻ってるといいとそう願った。




 

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