novel
□M
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それは突然だった。
「…騒ぐな。騒げば殺す。」
後ろからぶつかられたと思ったら、低い声が耳元を掠める。
本能的に危機を感じた私の体は、男に対して従順に動く。
「そのまま歩け。決して振り返るな。」
腰に軽く触れる相手の手の感覚だけで方向を指示される。
私はなるべく進行方向だけに視線を向けて、これから向かうであろう場所までの位置を正確に記憶に残す。
たまにすれ違う人々に目で合図を送るものの、凶悪事件、さらには海賊などとは程遠い日常を送る彼らには届く事はなかった。
男から発せられる殺気は私でもわかるほど鋭い。
私を知ってかどうかはわからないが、海賊相手に強気に出るのだからそれなりに力のある相手に違いない。
なんとかして逃げる方法を、辿り着くであろう目的地までの間に考えなければ。冷静になれない頭で必死に可能性を見出だそうとする。
いつでも武器を取り出せる様に頭の中でシュミレーションを繰り返す。
敵わぬ相手だとしても、刺し違えたとしても、せめて一矢だけでも報いたい。
だんだんと人気のない場所へと入っていく。
男に指示されるまま、通りの角を曲がった時、ふいに飛び出して来た猫に男が気を抜いた。その一瞬を狙って、私は武器を掴み相手を殴りつけた。
「っ!!」
男は片手でそれを防御すると、そのまま後ろに跳ね退いた。