‐gintama‐

□LIPS
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「お奈美ーお奈美ー!晋助様が呼んでたッスよー!」

『はぁい。今行くー』


自室で手鏡片手にリップクリームを塗ってたら、また子ちゃんがそう大きな声で呼びに来た。

「なんッスかね!?」なんて鼻息を荒くさせて興奮気味で肘を小突いてきたけど、多分“花札の相手をしろ”とかだと思う。

あの人ああ見えて昔から大の花札好きで暇さえあったら誘ってくるから。

全てをブッ壊すみたいなあの風貌あの見かけによらずそういう可愛らしい部分も少しは持ってたりする。少しは。


「あれ?お奈美さんお一人ですか?どこに行かれるのです?もしお暇でしたら私と一緒にお医者さんごっこでも…」

『晋ちゃんの部屋。呼び出されたから行ってくるね。また子ちゃんだったら今暇してると思うよ』

「あっ…お奈美さん…」


廊下で擦れ違った武市せんぱいにそう告げて(何故か白衣を着て聴診器を持ってた)従順に彼の部屋へと早足で向かう。

少しでも遅いとあからさまに機嫌が悪くなって吸ってる煙管のケムリンを顔に吹きかけてくるからね。(受動喫煙反対ー!)


━━コンコン


『お奈美ですー。お呼びですか?』

「………入れ」


そう隔たれた襖の奥から聞き取れるか取れないかぐらいの低いよく聞き慣れた声が返ってくる。


『なあに?晋ちゃん』

「……その呼び方やめろっつってんだろ」


部屋の主…いや、この船の長は畳に似合わぬベットに腰掛けて相変わらず今日も無駄にエロティックなオーラを漂わせて煙管を吸っていた。


『ああ、ごめんね晋ちゃん。つい昔の癖で』

「焼き入れられてェのか」

『やだよまたそんな怖いこと言って。物騒〜』


いつからだったかな。

“晋ちゃん”と呼ぶのを頑なに拒んでわたしがそう言うと怒って呼ばせてくれなくなったのは。


『それで何か用ですか?花札ですか?晋助様』

「その呼び方もやめろっつってんだろ。お前に言われると虫酸が走る」

『むぅ…なによそんな言い方しなくても。また子ちゃんはよくってわたしはダメなの?ひどーい』

「いいから普通に呼びやがれ」

『そういえば最近万斉さんの姿全然見ないねー』

「………」

『あっちのお仕事忙しいのかな?つんぽ♂さん』

「……紛らわしい言い方してんじゃねェよ」

『わたしね、この前出たお通ちゃんのアルバム欲しいんだけどサイン入りでつんぽ♂さんもらっといてくれないかなぁ?』

「……勝手にしろ」

『うんっあとでつんぽ♂さんに電話してみるでござるー!晋ちゃ…晋助はいらない?“浮き世のことなんて今日は忘れて楽しんでいってネクロマンサー”』

「ナメてんのかテメェ」


ブチッと静かに青筋を立てる。


『もうまたそんな乱暴な言葉使うー。ほら肌もこんなに出して…いつも言ってるよねわたし。服はちゃんと着なきゃダメって』


ベットにお山の大将の如くどっしり構えて座る晋助の前まで行き、惜しげなく開いた胸元に手を掛けて衿を直す。


「ククッ…じゃあお前が代わりに脱いで見せてくれんのか?」

『いやです。なんでわたしが。意味わかんない』

「わかんだろ、意味くらい」

『…もう、風邪引いても知らないんだからっ』

「お前が人肌であっためてくれりゃいいだろ」

『…晋助のエッチ、』


ククッ…と喉を鳴らして小さく笑う目の前の晋助。


「その手に持ってんのなんだ」

『わっ』


いきなり手首をガシッと掴んで鋭い目で見上げてくる。

わたしはもう見慣れてるけど、小さい子供が見たら泣き出してしまいそうなほどの目つきの悪い怖い顔。


『ああ…これ、リップクリームだよ。塗ってるときにまた子ちゃんが呼びに来たからそのまま持ってきちゃった』


顔の横でリップクリームを振って見せる。


『最近乾燥がひどいでしょ?だから毎日こうして欠かせないの』


ほんのり赤い色がつきチェリーの香りが漂うリップクリームを自分の唇の形になぞって塗る。


『そういえば銀ちゃんも昔いっつも冬になると唇の皮が剥けるとか言ってポケットにリップクリーム入れてたよね〜』


忘れたからわたしのを貸してとよく言ってきてはそのまま借りパクして、後日あたかも自分の物かのようにわたしのリップクリームを使ってたことが何度もあった。

そのたんびに晋助と毎回喧嘩してたっけ。


『こた…ズラ…ヅラちゃんはメンソレータム薬用リップの愛用者でいっつも唇ピカピカで天ぷら食べたあとみたいになってたよね〜』


晋助は昔から何故かわたしが“こたちゃん”と呼ぶのを心底嫌い“ヅラ”と呼べといつも強く言ってくる。

前に話の流れでつい口を滑らせて言っちゃったときは晋助を怒らせてここでは言えないような恥ずかしいコトされたっけ…。


「お奈美、あいつらの話はすんな」

『あれ?晋助も唇少し乾燥してる?』

「あ?」


晋助の顔をジィッと覗き込む。


『これ、わたしのリップクリーム特別に貸してあげるから塗って。はい』

「……なんだ、お前が塗ってくれねェのか?」

『!』


わたしがリップクリームを手渡すと、持ってた煙管をベットの上に置いてニヤリ‥とその目を向けてくる。


『…ふふっ、しょうがないなぁもう』


昔から変わらないたまにこうして不意に甘えてくる晋助。

そんな愛しい彼にリップクリームを塗ってあげようと腰を屈める。


『晋助は昔から甘えたさんなんだから…きゃっ…んぅっ…!!?』


次の瞬間、腕を引っ張られ後ろから頭を押さえ込まれて唇に衝撃と熱が走る。


『ふぁっ…んぅっ…』


目の前に晋助の綺麗に整った顔が視界いっぱいにわたしの瞳に大きく写る。

そんなわたしを真っ直ぐ力強く見つめる晋助の熱い獣のような瞳に吸い込まれるようにそっと静かに目を瞑る。


『っんぅ…はぁっ……』


器用な舌使いで巧みにわたしをあっという間に奥深く溺れさせていく貴方。

ゆっくり、でも激しく、口内を犯され最後に唇を舐め“チュッ”と優しいキスが音を立てて落とされる。


「━━甘ェな…リップクリームっつーのは」

『━━っ、』


ペロッとわたしに見せつけるように舌で自分の唇を舐めとる妖艶で魅了的な晋助の姿に顔が一気に赤くなるのがわかった。

でも、

わたしの体も正直でその甘いキスに酔ってしまったのもまた事実。


END(2012.05.06)


『し、晋助っ…!!』

「塗ってくれるっつったのはオメェだろうが」

『そ、そういう意味じゃなくてわたしはっ…!』

「お陰様で潤ったぜ」

『!、や、やだっもう恥ずかしいぃぃ…』

「もっと恥ずかしいこといつもヤってんだろ。今更何言ってやがる」

『……っ!!』

「それとも今ここで股開いてくか?」

『し、晋ちゃんのエッチッ!!』

「ほう…」

『(………ハッ!)』


し、しまったぁ〜〜〜


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つい勢いで「晋ちゃん」と言ってしまったお奈美ちゃん。
このあとどうなったのかは皆さんのご想像にお任せしまぁす(ハート)

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