‐gintama‐

□春雨日和2
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『♪〜♪〜♪〜』




炊飯器を両手で抱えてだんちょーの部屋へと急ぎ足で向かう。


今にもスキップしそうな勢いだ。


途中通り過ぎる他師団の人達から怪しげな目で見られるも、いつものことだからあまり気にしない。


だってあの人達(顔が動物の天人)、第七師団ってだけでいっつもそういう目で私達のこと見てくるから。(私は地球人だけどね)


え?なんで炊飯器を持って宇宙艦内を歩いてるのかって?


それは今日の夜ご飯がだんちょーのお口にあまりお気に召さなかったらしく、いつもの半分くらいの量しか食べてなかったから(と言ってもスゴい量だけど)だんちょーが大好きな我が故郷の地球のお米を胃袋いっぱい食べてもらおうとさっきまでキッチンで白米をこのmyジャーで炊いていたからであります。


お米はこの前地球に行ったとき大量購入して阿伏兎さんに船まで一緒に運んでもらった。(というか阿伏兎さんが全部持ってくれた)(夜兎の怪力は便利だなぁ)




『着いた…!』




無駄に長くて薄暗い廊下を進むと目的地であるだんちょーの部屋の前までやって来た。




『(だんちょー喜んでくれるかなぁ)』




胸を少しドキドキ踊らせ、目の前のだんちょーがいると思われる部屋の分厚い鉄の扉をノックする。




コンコン




「ダレー?」




中から美しいだんちょーのお声が返ってくる。


よかった…いた!




『だんちょー!お奈美ですっ!』




炊飯器を抱える両手に自然と力が入る。




「入ってきなよ」


『はい!…お、お邪魔します』




重い扉をゆっくり開けるとそこから静かに顔を覗かせる。




「何?こんな夜に俺を襲いに夜這いにでも来たの?」


『え、ち、違いますよっ…!』




だんちょーはベットに横になって寛いでテレビを見ていた。




『だんちょー…コレ、何見てるんですか…?』




寛いでテレビを見ているなんて可愛らしい言い方をしたものの、ブラウン管に映し出されてる映像はまるで背筋が凍りつく真逆のものだった。




「ソウ?っていう映画だよ。云業にDVD借りたんだ。これ地球産のなんだろ?中々オモシロイね」




そう言ってニッコリ笑うだんちょーに私は苦い笑顔をピクピク引き吊らせるしかなかった。




『ひぃっ…!』




テレビ画面からは血生しいグチョグチョしたグロテスクでエグイ映像が生々しく流れ続ける。




「あんたも一緒に見る?」


『え、遠慮させていただきます…!だんちょーと一緒に見る映画はタイタニックがいいです!』


「…たいたにっく?何それ?今度云業に借りてみるよ」


『是非!私の大好きな映画です!そのときは私も誘って下さい!』




だんちょーとタイタニック一緒に見れるなんて夢みたい…!


……ていうかなんで云業さん?




「あり?何ソレ」




私が持ってる炊飯器に気付いて首をちょこんと傾げるだんちょー。(カ、カワイイ…!)




『お米です!だんちょーの為に作ってきました!炊きたてホヤホヤです!食べて下さいだんちょー!』




だんちょーの可愛さに萌えつつも最上級の笑顔で両手に持った炊飯器をベットの上にいるだんちょーに向けて差し出す。




「ホント!?俺お腹ペコペコで死にそうだったんだよ」




そう言って嬉しそうにベットからジャンピングして(激カワ!)私の元へとやってくるだんちょー。(目線は炊飯器…)




『よかった〜そうだろうと思って作ってきたんですよ!…よいしょ、はいどうぞたんと食べちゃって下さいだんちょー』




部屋の中央にあるテーブルの上に運んできた炊飯器をドカンと置いてだんちょーを見る。(ああやっぱだんちょーはカッコイイなぁ)




『おかずはないですけど…』




そう何事もないように私はごく自然にその同じテーブルの上に置いてあるチャンネルリモコンを手に持ってテレビの電源を消した。(だんちょーは炊飯器をガン見して炊飯器に夢中で気付いてない)


さすがにあんなもん見ながらお食事というのは、ちょっと…ね。


まあだんちょーはそんなことお構いなしで全然気にもしないんだろうけど…。


むしろ食が進むとか言いそうなくらいだ。


イカれた狂人扱いしすぎだろ




「いただきまーす」




ソファーに座って炊飯器の前でニコニコ手を合わせるだんちょー。(キュン…!)


私はテーブルの横の地べたの床に座ってだんちょーの美しいお顔を眺める。(この角度から見上げるだんちょーもカッコイイなぁ)




「(バクバクモグモグ)」




しゃもじを右手、炊飯器を左手に小動物のリスのような頬袋をして夢中になってご飯を食べるだんちょーに笑みが零れる。


そして見る見るスピードで炊飯器の中の白米達がだんちょーの胃袋へとスゴい勢いで吸収されてく。




『あの、だんちょー、そのジャー6合までしか炊けなくて…あ、ジャーっていうのは炊飯器のことで…その、だんちょーにはちょっと少ないかもしれませんが…』


「うん全然足りないネ」


『ですよね…ごめんなさい』


「でもおいしいヨ」


『…だんちょー!』


「やっぱ地球のご飯はおいしいネ」


『量が足りない分、私の愛情をたっぷり込めて入れましたから!』




ただ研いで洗ってスイッチ押しただけである。




「(バクバクモグモグ)」


『(…え、スルー?)』




そしてあっという間にお米6合を見事に平らげただんちょー。(実に男らしい食べっぷりでカッコよかったですっ!)




「ごちそうさまでした」




ご丁寧にお手てとお手てを合わせるだんちょー。(キャーもうカワイイー!)




『ふぅ、じゃあ私はそろそろ…』




だんちょーのカッコイイお顔やカワイイ仕草がいっぱい見れて(おいしいとも言ってくれた)私も心の中でご馳走さまでした、とお腹いっぱいになったところで自分の部屋に帰ろうとフラフラした足取りで(だんちょーに萌え尽きた)冷たい床から腰を上げる。が。




「お奈美」


『え?』




蒼い瞳をしただんちょーに手首を掴まれ、鋭く見上げられる。


普段あまり見せないその表情にドキッ、といつもとは違う心臓の高鳴りがした。




「おいで、お奈美」




そう優しい声でまたいつものニコニコした表情で自分が座るソファーの空いてる隣のスペースをポンポンと叩く。




『?え、あ、あの…』


「早く」


『で、でも…私…きゃっ』


「遅いよ。言われた通り黙って俺の言うことに従ってればいいよ」




そのままグイッと手首を引っ張られ、ソファーに腰掛けるだんちょー様のお体の上に気付いたら跨がる形で乗っかってしまっていた。




『ぎゃああ…!だだだんちょーごごごめんない今退きますから…!光の速さで降りますから…!』


「なんで?」


『なんでって…え…?』


「いいよこのままで」




私の腰をガシッと掴んで何を考えてるのか相変わらずニコニコしてるだんちょー。




『あ、あの…だんちょー?』


「何?」


『だ、だんちょーがいいと言って下さっても、その…私はこんな近くにだんちょーの綺麗なお顔があってちょっと恥ずかしい、です…』


「いつもうんざりするほど人の顔のことギャーギャー騒いで言ってるくせにおかしなこと言うね」


『そりゃカッコイイですよだんちょーのお顔は!でもなんだか今はそのカッコイイお顔を見るのがとっても恥ずかしいですぅ…』


「あんたってホント変だね」




だんちょーの言う通り今の私はとっても変だ。


いつもだったらだんちょーの姿を見つけると自分から抱きついたりしてるのに(軽くあしらわれるけど)今はそのだんちょーから一刻も早く離れたい。


心臓がバクバクうるさくて、おかしい。




「でもよく出来たペットだよ」


『わっ…!』


「褒めてあげるよ」




そう言って私の頭を「偉い偉い」と撫でてくる。


その行為がなんだか物凄く照れ臭くてだんちょーの目を見れず、顔を下に向けてしまう。




「お奈美にお礼しなきゃね」


『え!?』


「米をくれたから」


『い、いいですよそんなお礼だなんて私はただだんちょーが…』


「キスしてあげよっか」


『え…えぇえええ!?』




さすがの突然の発言にビックリして驚き反射的にそこから後退りしようと体をクネらすも、だんちょーに腰をしっかり掴まれてる為、ビクリともしなかった。




「なんで?いやなの?」


『いやって、そ、そんな滅相もない…!いやなわけは無論断じてああありましぇんが…そ、その…私、だんちょーのことカッコよくて大好きですけど…キ、キスしたいとかそういうのとはちょっと違うような…違わないような…いやでも違うような…やっぱ違わないような…』


「メンドクサイよ。俺がやるって言ってるんだから黙って受け取れよ」


『だ、だだだんちょー…』


「目閉じて」




だんちょーのひんやり冷たい手が私の頬を撫で、私の顎に触れる。




『…ダ、ダダダメですだんちょー!』




目にうっすら涙を溜め、耳まで真っ赤にしたお奈美が小さな声を張り上げて言う。




「うるさいよ」


『っ…』




ゆっくり少しずつ距離を縮めて近付いてくるだんちょーに思わずギュッ、と目を瞑る。




「………」




そんな小さな体を小さく震わせる目の前のお奈美を黙って蒼い瞳を光らせ見つめる神威。


そして…




――チュッ




「やっぱりお奈美のほっぺはマシュマロみたいだね」


『え…』




だんちょーは私の頬に優しい唇を落とした。


てっきり口にされるのかと思ってたから、少しマヌケ面で目の前のだんちょーのお顔を見てしまう。




「ごちそうさま、お奈美。お腹いっぱいでおいしかったよ」




そういつもの笑顔で言って私の体から手を離してくる。


これを解放の合図だと受け取り、私は光の速さでだんちょーの上から瞬時にササッと降りた。




『あ、ありがとうごごございます!!おやすみないだんちょー!!』




そして来たときとは違うドキドキを胸に響かせ、だんちょーの部屋を炊飯器を抱えて後にする。




「はは、なんのお礼?」




そんなお奈美のあたふたした後ろ姿を楽し気に見つめる神威の姿がそこにあった。




END(2012.04.19)

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