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□ナンパにご用心
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*ゴーイング・メリー号時代










「ちょっと聞いてよ!」

探していたルフィとゾロの姿をちょうど二人揃って甲板で見つけ声を掛ける。

「断る!」
「なんでよ」
「ナマエのちょっとはいっぱいだからな」
「確かに無駄に長ェ」
「何よ二人して!いいから黙って耳かっぽじって聞きなさい!」
「耳を引っ張んなよ耳を」
「イテェーな」

非常に不愉快だ。
たかがワンフレーズ言っただけでなんでこいつらにそこまで言われなきゃいけないのだ。
背伸びして両手で二人の耳を引っ張ってやる。

「あ!それパイユじゃない」

ルフィとゾロをよく見たら手にじゃがいものパイユが入ったビニール袋を持っていて口がモゴモゴ動いていた。
小腹でも減ったからサンジくんに作ってもらったのだろう。二人とも油で唇がテカテカだ。

「わたしも好きなのパイユ。ねえ、少しちょうだい」
「えー」

あからさまにルフィに嫌そうな顔をされた。
こういうのって地味に傷付く。

「ナマエの少しはいっぱいだからな」
「何よさっきからもう!いいよルフィのはいらない!ゾロちょうだい!」

返事を聞く前にゾロが持つビニール袋に手を突っ込み食べてやった。
食い意地張ってるルフィにならまだしもゾロにまで断られたらさすがに悲しい。
ボソッと“太るぞ”という低い声が聞こえたが知ったこっちゃない。パイユおいしい。

「でね、聞いてよ。さっき街で男にナンパされたの」

ゾロのパイユを横取りしながら、さっきまで上陸してた島での出来事を話す。

「へェ世の中には物好きもいるもんだな。ちゃんと目ェついてんのかそいつ」
「パイユうめェー」

お前ら・・・!

「えらい軽く言ってくれてるけど危なかったんだからね!もう少しで襲われそうだったのよわたし!」
「逆だろ。手が出そうだった、の間違いじゃねェのか?そいつ色んな意味で大丈夫か」
「わたしの心配をしろ!!」
「あひゃひゃひゃ」
「ルフィも笑ってんじゃないわよ!」
「ナマエがキレるといつも以上におっかねェからなー」

なんなんだこいつら・・・!
ふざけてんのか、それとも本気と書いてマジで言ってんのか。
とりあえずクソむかつくんですけどォォォ!!!

「で、どうやって撒いた?まさかマジで殺ったんじゃねェだろうな」
「殺るかァァ!」
「あひゃひゃひゃ」
「あんたらなんか勘違いしてない!?わたしはあんた達と違ってか弱い普通の女の子なの!黙って聞いてりゃ人を鬼ババアみたいにふざけんじゃないわよ!」
「「か弱い・・・?」」
「そうよ。か弱いじゃないわたし」
「「・・・」」
「何よその顔!文句あるっての!?」

そう、わたしはただただごく普通の女の子。
ナミみたいに愛用武器も持ってなきゃロビンのように悪魔の実も食べてない。
とってもか弱いのだ。

「本当怖かったんだから!」

そう言いながら油で汚れた手を腹いせとばかりにちょうどいいところにあったゾロの腹巻きで拭く。

「ちょ、何しやがんだナマエ!」
「いかにもって感じのガラの悪いゾロみたいなこーんな目つきで体もゾロみたいにこーんな無駄に筋肉ついてゴツゴツした魔獣のような男だったのよ!?」
「テメェ・・・」
「なんだゾロだったのか」
「違ェだろ!」

まあ、奢るから一緒にメシでもどう?とよくある感じのナンパをされて、そのときあることでむしゃくしゃしててちょうどお腹も空いてたしタダ飯でもありつこうと軽い気持ちで誘いに乗ったわけだけども。
その風貌と図体に似合わず連れてこられたお洒落なイタリアンのお店はサンジくんほどではないけどどれもすごく美味しかった。たらふく食べてデザートまでしっかり平らげてやった。

が、問題はそのあと。

「そいつあまりにもしつこくて、腕引っ張って路地の裏道へ連れ込もうとしてきたの」

“てめぇ遠慮もなく食うだけ食いやがって俺の財布の中身どうしてくれんだ!”とか“きっちり体で3倍にして返しやがれ!”とかなんやか横暴に。

「だからわたし言ってやったのよ」
「なんてー?」
「“一つ言っとくけどわたしに手出したら仲間のモンキー・D・ルフィとロロノア・ゾロが黙ってないわよ。今にあんたをブッ飛ばしにやってくるわ。まだその命惜しいなら目障りだからとっとと消えて。それとも海賊に手出してタダじゃ済まないってことその体に叩き込んでほしい?”ってね」

そのときの男の表情を思い出し、不敵に小さく口角を上げる。

「人の名前を勝手に乱用して名誉棄損だ」
「しっしっし、ナマエの脅しは恐ェなー」
「当たり前でしょ」
「しかしよくもそんな言葉がペラペラと・・・相変わらず口だけは達者だな」
「ナミから教わったの。力では敵わなくても口では負けるなって」

グッと親指を立てて得意気にウィンクする。

「あの女・・・」

そんな目の前のナマエとナミの勝ち気な顔を脳裏に浮かべげんなりするゾロだった。

「でもそしたらそいつ顔色変えて逃げてったわ」

ごちそうさま〜、とちゃんと最後にお礼を言って。

「いやァ〜俺達のお陰でよかったなナマエー」
「違ーーーう!わたしの言ってることはそういうことじゃないの!わたしがこんな目に遭ったのも全部あんた達二人のせいだって言ってんの!」
「なんでだよー」
「なんでもかんでも人のせいにしやがる女だぜ」

第一わたしはナミの教えのお陰で自分の身を守ることができて助かったのよ。
仲間がピンチのときに助けにも来ないこいつらに何がわかるというもんか。

「いーい?今朝島に3人1組で上陸したわよね?治安があまり良くないとこだから逸れないようにくれぐれも気をつけてって上陸前にナミが釘刺して言ったの覚えてる!?」

ログが溜まるまで約半日だから問題を起こさず必要最低限の物だけを調達しにわたしとルフィとゾロ、ナミとウソップとサンジくんの二手に分かれて島に上陸した。(チョッパーとロビンは船番)

「それが何よ!気付いたらゾロは速攻消えていなくなってるしルフィは食べ物の匂いがどうのか言ってわたし一人残して走ってどっか行っちゃうしどういうこと!」
「何言ってやがるお前らが俺から逸れたんだろ。勝手にフラフラと俺が少し目ェ離したらいつもこれだ」
「俺てっきりナマエも一緒についてきてるのかと思ったからよーメシ屋でメシ食い終わったときにやっとナマエがいねェことに気付いたんだ」

・・・殺ってもいいデスカ?いいよねコレ。

「乙女のピンチだっていうのに・・・」
「「乙女???」」
「もうやだこいつらー!」

えーん、と両手で顔を覆う。

「ま、でもよーとにかくナマエがこうして無事に俺達の前にいてくれてよかった!」
「え、」

ぽんっと肩に手を乗せられ、ゆっくりその手を辿ってルフィの目を見る。

「本当にナマエに何かあったら俺そいつブッ飛ばすだけじゃ済まねェ。俺の大事な仲間に手ェ出したら許さねェもんな!」
「ルフィ・・・」
「しっしっしっ」

胸の奥がじん、とあったかくなる。

いつもこうだ。
わたしはルフィのこの笑顔に弱い。
さっきまであんなにむかついてたのにこの屈託ない笑顔を見たら全部許してしまうんだ。

「悪かったよ。これからはお前もちゃんと一緒にメシ屋に連れてってやるからさ、だから心配すんな!」

・・・うん、なんか根本的に違うような気がする、けどまあここはまっすぐなあなたに免じて許してあげよう。

「な!」

ルフィなりに多少罪悪感があるのかないのか、ぽんぽんと頭に手を置かれる。

「そういうこったァ、今度は迷子になるなよ。ったく世話の焼ける女だぜ」

ゾロェ・・・

「あんたって人は!どうしていつもこうなの!」


2010.07.29 来実

まだルフィとゾロしか賞金首になってないときのお話。※正確にはロビンも

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