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□女心
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*ゴーイング・メリー号時代










女という生き物は色々とめんどくさい。
でもせっかく女として生まれてきたからにはたとえ海賊だろうとやっぱ思う存分オシャレを楽しみたい。

「よし、片方できた」

マニキュアを塗り終えた左手を雲一つない青い空に向かって上げる。
可愛らしいピンク色だ。

本当はキッチンで塗りたかったが、マニキュア独特のツンとした匂いが夕食の仕込みをしてるサンジくんに迷惑だと思い(“ナマエちゃんと同じ空気を吸って一緒の空間にいれるなんて幸せだー!”とかなんやかサンジくんなら気にせず歓迎してくれるだろうけど)・・・まあ色々とめんどくさいので、天気もいいことだし昼寝しようと暇そうなゾロを見つけてパラソルとビーチチェアを倉庫から甲板にグチグチ言いながらも運んで設置してもらいこの晴天の下一人オシャレを楽しむことにした。

「何してんだナマエ」

珍しく遊びもせず何もしてないルフィがパラソルテーブルにちょこんと顔を乗せて空に向けたままのわたしの左手を直視しながら話しかけてきた。
自然と上目使いになってるルフィがなんだかちょっとかわいい。口に出して言うと怒るから言わないけど。

「見たらわかるでしょ。マニキュア塗ってんの」
「まにきあ〜?なんだそれうまいのか?」

でしょうね、そうくると思った。
オシャレとは掛け離れたオシャレとは無縁のこの船長にはわかるわけないか。

「女の子のオシャレよ」
「そんなもんツメに塗んのがいいのか?」
「そうよ。かわいいでしょ?」

まるで婚約指輪を見せるかのように自分の顔の横に左手を持っていき、どうよ、とばかりに満面の笑みをルフィに向ける。

「わからん!」

でしょうね、そうくると思った。(二回目)
だってルフィだもん。

「ルフィは男だからわかんなくていいの」

この男にオシャレうんぬんを言ったところで自分が疲れるだけで無駄だと悟り適当にあしらう。

「おう!俺は男だからな!」

・・・なぜ得意気。
まあ気にしちゃこっちが負けなのでスルーしてそのまま黙って残る右手の作業に入る。

「なあナマエー」
「・・・」
「ナマエー」
「・・・」
「ナマエ〜〜〜」
「・・・何よ」
「なんで女はツメにそんなわけわからんヘンなもん塗るんだぁ?」
「だからオシャレだって言ってんでしょうが!」

めんどくせぇぇええええええ

「なあナマエー」
「何!」
「ナマエはなんでおしゃれしてんだ?」
「そりゃいつカレシができてもいいようにね!」
「へェーお前かれしほしいのかー」

興味なさそうに目の前で鼻の穴に小指を突っ込むルフィ。
何この態度。人の話絶対聞く気ないだろこいつ。

「悪い?」

海賊だって恋したいお年頃。
常日頃から女子力磨いとかなきゃいつこの広い海で白馬の王子様との出逢いが訪れるかもわからない。

「お前にかれしなんかできんのか?」
「うっさいブツわよ!」
「ゴムだから效かねェ」

真顔でわたしの顔をじっと見てくるルフィにイラついたが、生憎わたしは今マニキュアを塗ってる最中なのでここは冷静に怒りを沈めようとぎゅっと体に力を入れて耐えた。

「・・・っとにさっきからブツブツと屁理屈を、ルフィも少しはサンジくんを見習いなさい」
「なんでー?」
「女心を少しは解れって言ってんの!」

まあサンジくんまでとはいかなくてもいいけど・・・あそこまでいってしまうと逆にうざい。
それにルフィがサンジくんみたいになったらイヤだ。そんな船長についていきたくない。(サンジェ…)

「わからん!俺は男だ!」
「あーもーはいはい、わかったからあっち行って」

これ以上この単細胞と付き合ってられないと既に乾いた左手でしっしっとルフィを追い払う。

「イヤだ!」
「ルフィ、わたし今集中してるの。だからルフィと喋ってると失敗しちゃうでしょ。わかる?」

ルフィと話してるとたまに自分が小さい子供相手に会話してる気分になる。
それだけルフィの精神年齢が低いというわけか。

「イヤだ!」
「ウソップとチョッパーと遊んでおいでよ」
「イヤだ!」
「ゾロ起こして鬼ごっこしてきたら?」
「イヤだ!」

・・・なぜ。
サンジくんは仕込みで忙しいし、かといって海図作成中のナミにルフィ押し付けるなんてできないし、どうしたもんか。

「ねえ、ルフィ、」
「俺はそんなもん塗らなくてもそのままのナマエがいい!」
「え・・・」

突然ガシッと手首を掴まれ立ち上がる。

「今のナマエが一番好きだ!」

力強いルフィの瞳と揺れるわたしの瞳がかち合う。

「は・・ちょっ・・・」
「しっしっしっ」

そう言い放つと船首で釣りをしてるウソップとチョッパーの元へと満足げに駆け寄ってくルフィ。

「意味わかんない・・・!」

自然と女らしい喋り方になる自分に歯痒くなる。

あのルフィのことだ。
別に今の発言にとくに深い意味はないのだろう・・・けど、今のわたしの顔は多分自分でもわかるほど真っ赤だろう。

(天然って恐ろしい・・・)


2010.07.25 来実

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