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□Scissors
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「なぁエース、ちょっとお前髪伸びたんじゃねぇかい?」
「そぅか?」


始まりはこの一言だった。




Scissors




滅多に身なりなど気にしないのは、海賊だからとかいう理由じゃない。ただ単に、そういう性格だからだ。
だから、こうしてマルコに言われて気づくことが出来たのだ。

「うん、伸びたねい。」
「ふーん……」

なんとなく話していた場所が部屋の窓近くだったため、ガラスに写し出された自分の髪を見ていると、首根っこ近くまで伸びていた。
ガラス越しにマルコも写って気づいたことがあった。
マルコって、どこで髪切ってんだろう。あの特徴的な髪型は、白ひげ海賊団の中でもマルコだけだ。

「なぁ、マルコはいつどこで髪切ってもらってんだ?」
「俺か?俺はなぁ……」

どこか言うのを躊躇いがちに腕を組んでしまう。
ただの散髪だけでこんなにも神妙な顔をされたのは初めてだ。

実はまさか、自分で…!?

なんてウケ狙いの話にもならない。

「まぁお前なら特別に教えてやってもいいだろう。」
「特別?なんだ?」
「実はな……………」



「えええぇぇぇっっ!!!!サッチが理容師!!??」
マルコの躊躇った意味がようやくわかり、開いた口が塞がらない。
「だけど、これは仲間には、ましてやサッチには口外すんなよい!!」
「えっなんで?船の上に理容師いるなら、わざわざ船降りなくても髪切ってくれんだろ?」
「まぁそうだったんだがよい……そこには深い訳があるんだい。」


実はサッチは理容師の父を持つ家庭で生まれ、仕事忙しさに両親は離婚。幼いサッチをなんとか理容師にさせようと、父はサッチに理容の勉強をさせたが、だんだん自分の将来を考え始めたサッチは、突然家を飛び出し、荒れていた頃オヤジに拾われた。
という噂らしい。


「そうか、だからあんなリーゼントで反抗して………「悪かったな。反抗的なリーゼントで。」

エースの背後からドスの利いた声がゆっくりと耳に入り込んできた。

「さ、さ、サッチ……!!!いや、これは、マルコが……!」
と眉間に寄せたシワが一層深くなるなか、エースは身の安全のため話をマルコに降った。

はぁ。アブねぇアブねぇ。

深呼吸をしながらそろりそろりと二人の会話の中から消えようとエースは後ずさる。
しかしサッチの血の気の引いたような気がエースに飛ぶ。

「お?エース……髪、長くなったなぁ…俺今ヒマだからよぉ、サクサクッと切ってやろうか?」
ギクッ!!!
体の硬直がまるで氷のように冷たいサッチの声によって、固められた。
「来いよ。聞いたんだろ?マルコから」
「いや、でも、その〜」

「来いっ!!!」
「はいっ!!!」

エースは渋々サッチの部屋へと強制連行された。

そして、1時30分後………

「おらっ出来上がりだ!」
ずーっと目を閉じていたエースはサッチに渡された鏡で驚愕の事実を目にすることになる。

「至って、フツー。というより、じょう、ず?」

鏡に写ったエースは長くなった後ろ髪がキレイにカットされ、横もいい具合に揃い、そういえば自分はこんな髪型だったなぁと思い出させてくれるほど、上手なカットだった。

「あれ、でもサッチ…オヤジさんに期待されたくなくて荒れてたんじゃ………?」
「まぁな。それなりにヤンチャだったけどよ、一人で小さな理容店経営してるオヤジの背中見たらさ、なんつーか…放っておけなくてよ。猛勉強はしたさ、この船乗る前だけどよ!」
「じゃあマルコの話は………」
「まぁ海賊船の噂なんつーのはそんなもんじゃね?」

エースはホッと一息ついたが、そういえばマルコの話を思いだし無性に腹がたちこめた。

「マルコ……まさか、俺をサッチの実験台にしたんじゃっ!?」
「そうだなー、初めから噂が流れてたから、誰の髪も切ったことはねぇな!」
「マルコのヤローっ!!」

バンッとドアを勢いよく叩いてエースは飛び出していった。


これで妙な噂も無くなるだろうと、サッチだけはほんの少し喜んでいた。



END


「マルコ!お前、サッチに切ってもらってたって言ってたじゃねぇか!」
「ん?あぁ、俺は立ち寄った島で切ってもらってんだよい」
「でもさっき、サッチが来る前っ!」
「あれには続きがあってねい。サッチに切ってもらおうと思ったがそういう噂がたったから、やめといたんだい!」
「じゃあ、やっぱり俺を実験台に………」
「まぁそんな怒るなよい!いい具合にカットされてるじゃねーかい?」
「うっ…そ、そうだけど……」
「妙な噂もエースのお陰でキレイさっぱりだい!」


というマルコの姑息な戦略があったとかなかったとか。

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