2

□初めての気持ち
1ページ/1ページ


突然だった。

早くあがれたからと、家でテレビを見ていたときにこの部屋のもう一人の住人、ザックスが映っていたのだ。

遠征から帰る途中、小さな村を魔物から守ったと記者が伝えている。その様子をたまたま通りかかったテレビ局が撮影に成功したと、戦闘の様子を事細かに放送していた。


凛々しい顔立ちで、襲いくる魔物に背負っていたバスターソードを抜くと、一瞬にして魔物は消えていった。

いつも見ている顔とは、また別の顔だ。

デレデレとした顔じゃなく、自分にも見せない顔立ちに何故か胸が苦しくなった。


インタビューがあるらしいが、どうも見る気になれない。


テレビを消すと、クラウドは部屋を出た。





特に行く宛もなく出ていったせいで、のびる足先はいつもの神羅ビルで、玄関を目の前にしてハッと我にかえった。

なんでここへ来たんだろう。

居たたまれなくなった、共同部屋に匂うザックスの香りがどうもあの時の自分を弱くさせたんだ。
そう言い訳するが、胸の苦しさは増すばかりで、気分はよくない。

すると玄関の奥から、女性に囲まれたザックスの姿があった。

どうやら、ニュースを見て駆け付けた女の人に集られているらしい。それでなくてもセフィロスの片腕として、人気のソルジャーでいるのに、さすがに今日の追っかけは凄まじい。

照れながらも相槌を打っているであろう、ザックスの笑顔にまた、胸が締め付けられる。

こんな時、素直に喜んであげられない自分はなんて憎たらしいのかと思う。


なぁ、ザックス…俺、自分が思っていたよりも…アンタのこと、好きみたいだ。


ふと、考えもせずに心の中に浮かんだ言葉に頬を赤らめた。

(何を考えてたんだ…!)

恥ずかしくなり、一目だけザックスを見つめると、その視線に気づいたであろうザックスが不思議そうにこちらを見ていた。

頬を赤くし、手で口を塞いでしまって、この恥ずかしい思いに気付かれたくないと、クラウドはそのまま寄宿舎まで走り出した。

(バカだ、俺…!)

(バカだ、バカだ、バカだ!!)

突然、走り出したクラウドがおかしいと察知したザックスも、取り巻きを払いながらクラウドを追い掛ける。

夕方の帰宅時間ともあって、人の並みは二人を引き離すように立ち塞がる。

「クラウドーー!」
ザックスは大声でクラウドの名を叫ぶが、小さなチョコボ頭は人混みに埋もれて行くばかり。
クラウドも振り返ることをせず、ただ一心不乱に前だけを見て走った。

人混みがクラウドの行く手を阻む。
もう、どっちが寄宿舎なのかもわからなくなり、いつの間にか暗い路地裏に入ってしまっていた。

「はぁはぁはぁ………」
自分の思いを知られたくないせいで走ってきたが、きっとザックスはそんなこと知らずにいるだろう。
むしろ、目が合ったのに、走り去るなんて逆に不自然だ。とクラウドは思い直し、来た道を帰ろうと振り返るが、ビルとビルに挟まれた細い路地が幾つもあり、完全に来た道を失っていた。
「ど、どうしよ……」
ケータイを開いてみるといつの間にか19時を回っていた。

これは部屋に帰ったらきっと、ザックスのやつ帰ってるだろうし、「なんで逃げたんだっ!」って問い詰められる。
そりゃいつかは顔を合わせないといけないだろうけど…今はまだ、感情を抑えきれない。

とりあえず真ん中の路地を進んでみることにしたクラウドは、ゆっくりと暗闇のなかを進もうとした。その時、

「そっちじゃないぜ。」

どこからともなく聞き覚えがあり、今一番会いたくない人物の声がした。

「逃げるなんてひでぇーな、クラウド」
「……ザックス?」
振り向くとやはり、本人で、声色から背筋が凍った。
「こっち。ほら、」
と第一声から怒られると思っていたクラウドは掴まれた右手に引き寄せられ、とてとてと歩きだした。



それから、ザックスのお陰で路地裏を抜けた二人は、寄宿舎へと帰った。

玄関の鍵を閉めた途端、ザックスからぎゅうっと抱き締められる。
「良かったっ!マジ、どうしようかと思ったんだぞ!」
「えっ…」
「急に走り出すし、クラちっせぇから姿見えなくなるし、すると危ない路地裏入ってくのが見えて追い掛けたら、また違う方向行こうとするし……」
「ザックス…怒って、ないの?」
「怒るっつーよりも、心配した!お前、方向音痴すぎ!」
更にぎゅうっと力強く抱き締められ、クラウドは身動きがとれないでいた。
「ご、ごめん…」
ザックスの大きな胸板から聞こえる心臓の音が、今までの妙な気持ちから素直にさせてくれた。
「理由、聞いてもいいか?」
「うん………」


初めての嫉妬だった。
そういう感情を今まで抱いたことがなかったクラウドは、どう言葉にしていいかわからなかったが、やっとそうなんだと認めることができたのだ。

自分には見せない顔を、あんなにも公で見せていたこと、やっぱり、自分には不釣り合いなんじゃないかと思うほど人に好かれているザックスが羨ましいし、自分には勿体無い気がして、と。

クラウドはザックスの心音に耳を傾けながら、打ち明けた。


「理由はわかった。けど、そこをお前が決める必要は無いからな。俺は、誰よりもお前を愛してんだぞ?自信持て!俺は、クラウドだけのものだって、な?」
「う、うん…」
「でも、嬉しいなぁ。これで俺たち晴れて相思相愛ってわけだもんな!クラウドも俺のコト、マジ本気みたいだし、今夜は寝かせないぜ?」


ギクリ、とした時には既に遅く。
そのままザックスのベッドへと運ばれたクラウドは、諦めるしかなかった。


END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ