刀剣乱舞

□『俺の嫁さんC〜はじめての共同作業です。〜後編』
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「………クリスマスもひとり寂しく仕事かぁ…、―――くそ、いつの間にか『同盟』から脱却してやがって、あの裏切り者ども。」



――――あれは確か研究室に異動になってから半年後の事だったと思う。

年の瀬の多忙且つ激務の最中(さなか)、知らぬ間に独り身から次々と離脱した同僚達が悠々と有休を消化するのをよそに、ひとり黙々とキーボードと馴れ合う俺と。
そんな俺に唯一やさしい神様と過ごした、初めての冬。



《―――ゴメンネ。僕ラノ為ニ、主クンハ一生懸命オ仕事シテクレテルノニ……僕、何ノオ手伝イモ出来ナクテ…。》

「いやいやいや。なに言ってんの、『人間(俺達)』に付き合ってくれてんの、みっちゃん達でしょ。」



必要だからって『データ収集』の名目で始終観察されてなきゃならない状況に、人間だったらとっくに嫌気が差すどころか発狂もんだろうに。
不平不満も口にしないどころか、常時へばりついてる人間を鬱陶(うっとう)しがるでも、つっぱねるでもなく。こんな風に気を遣ってくれたり労(ねぎら)ってくれたりと優しくて、どんだけ出来てるんだって話だ。

神か。―――いや『神様』だったわ、正真正銘。



「―――それに帰る場所なんて『政府』の寮だしさ。寂しく女々しくキャッキャウフフしてる世のリア充達に八つ当たりの恨み節孤独に吐いてるよりは、有意義だし。…考えてみれば結構贅沢(ぜいたく)なシチュエーションだよな、これって。綺麗でカッコよくてやさしい神様が一緒にいてくれて、その神様と一緒にクリスマスとか。宗教的にごっちゃな感じだけど。」



まあ、みっちゃん達(神様側)にしたら、迷惑な話かもだが。



《――――……、ダヨ…。》

「ん?」

《……僕ダッテ、…君ト一緒……嬉シインダヨ。》




――――僕らは人に寄り添う『もの』だから。

共にあって、傍(そこ)にあることを許されることを、……歓(よろこ)ぶものだから。





《…ダカラ、ソレガドンナ『時』デ、ドンナ『理由』デモ。……人(きみ)ニ求メラレルコトヲ、『僕ら』ハ、歓ブンダヨ。》





******





…、
……、

………ちんもくがいたい。



うん。わかってる。
俺が悪いのは重々承知してる。
焦ってたとはいえあの台詞(セリフ)は無かった。

ただでさえ(余所(よそ)は知らんが)ウチのみっちゃんは見た目イケイケ&オラオラでも、無垢というか純粋というか深窓の令嬢とか良家の箱入りお姫様みたいな清楚可憐な大和撫子感あるのに、いっそ幼さ感じさせるぐらいのそんな穢れなき『神様』にあの発言は完全にアウトだしギルティだ。
どこぞの『神様』に御用改めされようがお覚悟されようが文句は言えない。
俺も外野だったら通報してる。慈悲は無い。



「…審神者(さにわ)様は燭台切光忠様に幻想(ユメ)見過ぎでは?しかも下心バリバリに匂ってますし。」

「匂ってるとか言うな。俺が不潔みたいに。」

「誠意をもって否定できます?」

「ごめんなさい。―――っいや!ほんとに不潔にしてるとかじゃないからな!!?ちゃんと風呂とか入ってるからなッ?!そういう意味の『不潔』じゃないからな!!!?」

「〇貞で変態な妄想激しいにしても、実際に清潔面まで穢(けが)れが激しいとか同じ空間で空気共有し難いですものね。」

「そこまで言うッ!!?」



お前俺の事嫌いなのか!!?

若干詰め気味に発するも、もふもふ狐は素知らぬ顔でツーンとそっぽ向いて無視である。
…確か君、俺のサポート係兼部下だよね?
あ。正確には『政府の』狐だから、俺には塩というかツンドラ対応なのか……??

―――まあ、こんな変態審神者がよりによって担当じゃ、こいつにとっちゃ不運以外の何物でもなさそうだけど。
あれ。ていうか俺、何か忘れてないか?



「………。」



背後からした衣擦(きぬず)れの音に思い出して固まる。
…そうだよ。俺、口に出したつもりなくていろいろ口走ってたけど、こんのすけに突っ込まれたってことは当然、傍にいた『俺の嫁さん』にもおんなじ事聞かれてたってことで。



「……僕、」

「っ、」



…なんだ。
なに言われるんだ?

「幻滅した」とか?
「気持ち悪い」とか??
言われんのか?みっちゃんに?
あの綺麗な顔で。あのいい声で。

俺のこと「好きだ」って、天使か女神様みたいなあの眩しい笑顔で言ってくれたみっちゃんに?
……やばい、言われても仕方ないけどぐっさり来そう。





「 …主くんが思うほど、そんなにお行儀良く、…ないよ? 」





………ん?



するり、と人肌とは違う感触が掌に滑り込んでくる。
…思わず連想したのは雪のように白くて綺麗な、蛇だ。
淡く月の光を受けて滲むように光る鱗が、全身に纏(まと)われた姿を無意識に想像していた。



「主くんが思うより、…ずっとイケナイ事考えてる、…悪い『刀』かもしれないよ?」



みっちゃんに限って、なんて。そんな風に否定しかけたところで滑り込んできた感触が絡む。
長い指が絡んで、いちばんいい具合に収まる場所を探るみたいにするり、すりりと。握り締めては緩めるといった動作を二、三度繰り返す。
…なんだか腰から背中にかけてぞわりと寒気に似た感覚がした。
なめらかな何かに背中を撫でられたみたいに。





「 ―――僕も、一応『男』に創られてるからね。 」





秘密を囁くみたいに、…「内緒だよ?」と打ち明けるみたいに。
少し潜められた、はじめて聴いた『聲(こえ)』でみっちゃんが言うから。
振り向くのに少し躊躇して、わざと勢いをつけて顔を向けたら、急にぐりん、と振り向いてきた俺に目の合ったみっちゃんは一瞬きょとん、として。

それから。
―――とろりと、蜂蜜がしたたり落ちそうな甘い瞳を細めながら、綺麗な唇で弧を描く。





「 ―――っふふ、…どきどき した? 」





そんな雄(オス)臭い顔で。声だけで妊娠させそうな悦(い)い聲で。
なのに傾国の美女も真っ青な、そんな誘惑フェロモンMAXなエロい眼と表情でその台詞(セリフ)とか。

あ。これアカンやつ。





「………(突っ込みたくありませんが)ちょっと目を離してる隙に何をしてるのですか、審神者様。」





俺に構うな。…ていうか「突っ込みたくない」とか明らか関わりたくない心情丸出しじゃねぇか、聞こえてんだよ。

でも気持ちはわかる。
俺だって俺じゃなかったら関わりたくない。
今の俺、伸びした猫みたいな体勢且つ床と『こんにちは』状態でいわゆる『ゴメン寝』でバイブってる(←めっちゃブルブル振動中)からね。
おかしなもの食べて具合が悪いか、精神状態が危ぶまれる人かの二択状態だからね。仕方がないね。

もふもふ肉球ついた前足で頭ふみふみされながら一人で愚痴って納得してたら、すぐそばに誰かが膝をつく。
…二足歩行は俺以外にひとり(一振り?)しかいないんだから、その言い方もおかしいんだけど。



「……こんな『僕』は、いや?」



がばり、思わず飛び起きたらやっぱりほんの少し眉尻を下げた困ったような笑みで、俺のすぐ傍(かたわ)らにみっちゃんがいた。





「嫌な訳無い、絶対ない。」





『男』くさくてエロカッコいいみっちゃんも。
やさしくて健気で、やっぱりどこか無垢な感じのエロ可愛い俺の『嫁さん』のみっちゃんも。
全部セットで『俺の』燭台切光忠だ。

俺が即座に切り返した直後に、一瞬泣く寸前みたいな顔をしたみっちゃんは、それからふんにゃりと子供みたいに嬉しそうに破顔した。
また俺は昇天しかけて床に潰れた。



「……なんだかちょっと面白くなってきました。バラエティに富んでますね審神者様。」

「ネタ披露してる訳じゃないわい。」



なんていつまでもおふざけしてる訳にもいかず。
こんのすけが途中まで運んでくれてた資材を、追加で必要量まで妖精さんに預けていく。…あんなちっちゃいのになんて力持ちなんだ妖精さん。こんのすけもだけど。
使用する資材の量は最初と同じ必要最低限の量(←初期値)で設定した。…就任したばかりの新人審神者に割り当てられてる資材の量なんて、そんな多くないしな。





『03:00:00』





…………?
あれ?デジャヴ??

見覚えのある数字の並びになんともいえない沈黙が落ちる。
数秒か数分か。少しの間みんな口をつぐんでいた。



「……燭台切様、」

「……ぇ、と。…たぶん、違うと思うよ。もう僕、何もしてないし…………たぶん。」

「…審神者様?」

「俺にどうこうする力があると思うてか。その目やめろ。」

「………『鍛刀』だけに何枚もこれ以上『手伝い札』を消費するわけにもいきません。」



非常に冷めた目で俺を流し見た後(完全に冤罪。非常に遺憾(いかん)。)、溜息と共に気を取り直したこんのすけに勧められて、『万屋街』とやらにみっちゃんと買い物に行くことになった。
『通常通り』とは異なるここまでの流れから、みっちゃん以外の『刀剣』様が正常に鍛刀され、また支障なく『刀剣男士』としての任務を実行できる心身の状態であるかを、まずは見定めてから業務を進めるべきだとこんのすけに進言されたからだ。

「…『この』燭台切光忠様からして、『特殊な状態』でこの本丸に顕現(けんげん)されていますので。念の為、他の『刀剣男士』様の状態にも目を配るべきかと。」
「…確かに。」

本来なら『本霊』――――みっちゃんの大元である『燭台切光忠』という『刀剣男士』の根幹たる存在から生み出されて、この『本丸』に降りてくる筈の分霊が、俺のみっちゃんは政府施設で保護されている筈の『燭台切光忠』の分霊の本体からこの『本丸』に降りてきている。
他の『燭台切光忠』や『刀剣男士』に出来るかどうかというのはさておき、確かに特殊な状況ではある。

…となると、俺がいた『研究室』にいた『みっちゃん』―――というか『燭台切光忠』の本体の中身はどうなっているんだろう?
その辺どうなってるのか確かめられるかどうか気になって聞いたら、こんのすけの方で詳細を確認してくれると言ってくれた。
『政府』の直接管理下に置かれている筈の『刀剣男士』が、この『本丸』に降りてきてしまっている件に関しても、『政府』と上手く交渉してくれるとのこと。
やだ。うちのこんのすけ有能(ハイスペック)の匂いがする。



「 …『政府』も一振りとはいえ、自分達が『神』にまで祀(まつ)り上げた相手に悪印象を与えたいとは、思わないでしょうから。 」



『政府』に一度報告に戻ると告げたこんのすけが、去り際そう零して視線をやった先には。
『鍛刀部屋』の時計の下にある鍛刀時間のタイマー表示を見上げる、みっちゃんの静かな背中があった。



(※『万屋街』での男審神者とみっちゃんの初デートについては、『小咄。@《万屋イベント〜はじめての買い物デート編》』にて。)
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