刀剣乱舞

□『俺の嫁さんB〜はじめての共同作業です。〜前編』
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大したものでなくとも、俺から贈ったものに心底喜んでくれて。

不慣れな『人』の感情に寄り添おうと、唯一の『意思表示(電子文字と機械音声)』を懸命に綴っては、時折意味不明な言葉を弾き出して慌ててみせたり。

触れて労れないことに落ち込みながら、仕事に集中し過ぎて限度が過ぎる俺を穏やかにたしなめたり。

俺が必要だと、てらいもなく真っ直ぐに、少ない手段ででも『彼』ができる精一杯で伝えてくれた『好意』が、嬉しかった。

気付けばするり、と自然に口から出た『言葉』は。
すんなりと出過ぎて、軽い響きに聞こえたかもしれないが、本心だった。



「可愛いし、格好いいし……あーあ、みっちゃんが俺の『嫁さん』だったら、よかったのになぁ。」



『神様』相手に恐ろしく身の程を弁えない発言だったが、俺の『幸運』は、告げた相手がそんな身の程知らずを笑って許してくれる優しい『神様』だったことだ。

……そのうえ、その優しくて綺麗でかっこいい『神様』は。
そんな身の程知らずでたかが一人間の俺が、うっかりちゃっかり溢(こぼ)した『本音(欲望)』を真摯に受けとめて、拒絶するどころか受け入れ、喜んだ。





《―――ネェ、主クン。モシ、僕ガ………》





■□■□■□■





ぐりぐり、すりすり、となつくみっちゃんの可愛さに俺の脳内で理性と欲望が第○×次大戦を繰り広げ、その隣ではお花畑で例の黄色いネズミが『ピッピカ♪』鳴きながら一匹、二匹、三匹、四匹―――――なにこのカオス。

取り敢えずだいぶ現実から逃避していた俺を、何時からいたのか部屋の外で待機していたこんのすけの声が引き戻してから少し経ち。
場所は再び鍛刀部屋。



―――ところでちょいと話は変わるがこんのすけ。

お前、帰ってたんならさっさと声かけてこいよ。
つか、入ってこいよ来てよ。

俺の理性がどんだけヤバかったと思ってんだ。
変な期待すんなよしないでよ。
俺そんなに強い子じゃないのよ。
割と欲にまみれてるし、まみれにいっちゃってるし、理性の善戦にも限りがあんのよ。

………………お楽しみのところに無粋かと思いましてとかちょっと止めて妖精さん達と一緒に生温い目で見てこないでお願い。

もふもふとちみっちゃい愛くるしいコンパクトタッグにそんな目で見られるとか、それどんな羞恥プレイ?
俺のSAN値がちょちょ切れる。
俺、Mじゃないし喜べない。



「………。」
(………?あれ?)

可愛い不思議系生物達相手の容赦無い精神攻撃に曝された後、ふとやや斜め後ろに粛々と控える俺の嫁さん(ヤバい恥ずかしいやらニヤけるやらちょっと落ち着け俺。)の沈黙がやけに気になり、顔を向ける。
綺麗な顔を窺うも、見た目にはどうという変化は無い。

でも、なんというか拭いきれない違和感にじ、と凝視したままでいると。
そんな俺にそう間を置かずに気が付いて、「なぁに?」と問うように淡く口角を上げて笑みで返してきたみっちゃん(……可憐だ。)は、視線を固定したまま何も返さない俺に最初こそ不思議そうな顔をしていたけれど、段々と居たたまれなくなってきたらしい。
眉尻がやや下がり気味になり、困ったような顔が徐々に頬に赤みが差してきて、視線も時折うろうろと落ち着かなくなる。



(………困った顔もかぁんわい〜ぃなぁ〜。)



今俺、ニヤけてない?
絶対ニヤけてるだろ、これ。

だって可愛い、愛でたい。
触りたい、撫でくり回したい。

あっさりと欲望に降参宣言した俺の手は既にみっちゃんの頭の上にあって、彼の艶やかな髪をくしゃくしゃと掻き混ぜている。
きょとん、として猫みたく眼を真ん丸にしたみっちゃんが無抵抗なのをいいことに、今度は両手でワシャワシャと触り心地のいい髪を掻き乱せば、焦ったようなみっちゃんの声。

「っわ!ちょ、主くん……ッ!!?」
「んー?」

わしゃわしゃわしゃわしゃわしっ。

目を白黒させて明らかに戸惑った声を上げながら、けど逃げようとも振り払おうともしないみっちゃんの手は、俺の服の袖の端を掴みはしていても、俺の行動を妨げようとはしていない。

………こういうところ、甘やかされてるなぁ、とか。
ゆるされてるんだな、とか感じて、図に乗ってしまってる感は多々ある。

『文字』でしか触れ合えなかった頃からと同じ。
変わらないことが嬉しいとも感じる。
基本の言動からすれば大人で落ち着いて隙の無いイケメンの彼が、やわらかくて無防備な場所を俺に晒してくるのが堪らなく可愛くていとおしい。

ほら、ついさっきまで困った顔してたのに。
いつの間にかくすぐったそうな、そんな嬉しそうな顔で。
黙ってれば精悍で凛々しい、如何にもな『伊達男』がふにゃり、と少し幼い笑顔に綺麗な顔を崩すのが本当に堪らない。

「…〜〜〜〜っもぉ!主くんってば乱暴!」
「ごめんごめん。触り心地よくって、気持ちよかったからつい。」

散々わしゃりまくった後にようやく解放すると、言葉だけなら怒ったような、事実、にこにこと上機嫌なみっちゃんが目の前に。
乱れた髪でも損なうどころか、ちょいワイルドな感じが色気割増しで更に魅了度アップになるんだから、イケメンて本当に得だ。

………てかさっきから思ってたけどみっちゃん、嬉しそうな時ヒラヒラ桜舞わせてるのかわいいね。
それってイケメン仕様?

「せっかくかっこよくしてたのにごめんな?乱しちゃったお詫びに俺が直してもいい?」
「いいのかい?」
「みっちゃんが良ければだけど。」
「悪い訳なんて全然無いけど……んー…、じゃあ、お言葉に甘えようかな?」

「かっこよくしてね。」と、少々面映ゆそうに甘えてきたみっちゃんにぎゅぅ、と抱き締めたくなるのを堪えて綺麗な髪を手櫛で丁寧に優しくすいていく。
………みっちゃんの髪、本当に触り心地良いな。
ずっと触ってたくなる。

触らせてる方のみっちゃんも気持ち良さそうだ。
透けるような白い目蓋を閉じて、うっとりとされるがままのその無防備で艶っぽい表情にどきどきする。
薄く開いたやわらかい(実体験済み。)唇と唇の間から、満ち足りたような吐息がほぅ…、と零れ落ちるのにごくりと思わず生唾を飲んだ。

直後、それが聞こえたのかぱちりと綺麗な蜂蜜色の瞳を開いたみっちゃんと目が会う。
ぎくり、と反射と気まずさから肩を強張らせた俺に、切れ長の瞳を優しく細めたみっちゃんは、またゆっくりとまるで何かを味わうようにその目を閉じて。
あの低くて腰の辺りがぞわぞわするエロティックな声で「……きもちい…。」と囁くように呟いた。

――――あ。これ、アカン奴や。



「………何でしたら『また』外でお待ちしましょうか?」

「っうぉ゙!!?!」



チクチクと刺すようなこんのすけの声に我に返る。
前のめりかけていた身体をバネ仕掛けの玩具みたいに勢いよく直立に戻して振り向くと、死んだ魚みたいな目をしたこんのすけと目が合った。

妖精さん達に至っては空気読みすぎというか、こっちに背中向けて丸まってたり、ちっこい手で目隠しなんかしちゃってたりして…………うん、大変かわいらしい。

みっちゃんとは別種の可愛さだな、こりゃ。
あのまろいほっぺとか無性につつきたい。
…え?お触り厳禁??
そんな、こんのすけさん殺生な。

こんのすけ(マネージャー)との交渉に失敗した俺が少なからず落胆していると、ちょぃちょぃ、と服の端を引かれて、みっちゃんへと振り向く。

「どした?みっちゃん。」
「……、」
「ん?」

俯き、視線を少しさまよわせてから、舐めたら甘そうなみっちゃんの瞳が上目遣いに俺を見る。(だからそれアカンて。)



「……僕、だったら…、主くんにいくら触られても……いいんだけどな。」



ちょっと拗ねたような口調に期待を隠さない眼差しでそんなかわいい台詞(セリフ)聴いた俺が正気でいられた訳もなく直後に無茶苦茶撫でくり回しましたが何か問題でも?

あんな可愛いおねだりされて正気でいられる聖人がいたら是非連れて来い。
色々ご教授願いたいです、今後の為に。(俺が通報されない為に。)



「その前にわたくしめが通報致しますが。」



こんのすけ辛辣(しんらつ)。




というかそんな感じでじゃれてたら、いつの間にか鍛刀妖精さん(頭にちっちゃな烏帽子(えぼし)のっけてて可愛い。)が近くに来てて、これまたちっちゃなお手々で服の端っこちょんちょん引っ張られて慌てて居住まいを正す。
やばいやばい、今は勤務中だ勤務中。

『神様』を産み出す―――というか力を借りる為に降りてきてもらう大事な儀式だ。
失礼があったらまずい。(こんのすけが「いまさら?」なんて冷たい目で見てくるけど今は気にしないったら気にしない。)



『03:00:00』



…ふむ。一番少ない資材量で妖精さんに頼んでみたんだが、やっぱり時間かかるもんなんだな。
政府にいた頃、研究の為にある程度の知識は修めたけど、『刀』自体、普通に人間の鍛冶師さんが鍛え上げるとしたら、とても一昼夜で仕上げられる代物じゃない。
そう考えると妖精さん凄い。一晩もかからないとか。





「「………。」」

(…ん?)





……あれ?なんか空気、おかしくね?



「……審神者様、これを。」

もふりとした手に差し出されたのは『手伝い札』と墨で書かれた木の板だ。
鍛刀時間―――『刀剣』様が仕上がるまでの時間を短縮出来るらしい。便利だな。

言われた通り妖精さんに手渡すと、にこっと笑った妖精さん(やばい、ムチャクチャかわいい。癒し。)は俺から受け取ったそれを、今鍛え上げていたまだ『刀』の形を成していない鋼(はがね)の上へとそっと翳(かざ)す。
札が白い光に包まれて鋼へと吸い込まれ、吸い込まれた先から薄紅色の花弁が湧き出して鋼を包み込み、その形が束の間見えなくなる。



「……あれ?」



―――出来上がった『刀剣』様を妖精さんから手渡され、手に取った俺は思わず俺の斜め後ろに控える『彼』を振り向く。

馴染み深い美しい黒の拵(こしら)え、紫の太刀緒。
優美に泳ぐ龍の透かし入りの金の鍔(つば)。

―――『燭台切光忠』だ。
同じ一振りがみっちゃんのすぐ傍らにもある。

「…資材量が見合いませんね。」

ぽつり、そう溢(こぼ)したこんのすけに言われて同じ数量で二回、三回、四回………やはり出来上がるのは『燭台切光忠』のみ。
流石にそろそろ俺も疑問を抱く。

「……なぁ、こんのすけ。」
「仰(おっしゃ)られたいことは解ります。…“これ”は、このまま続けても同じ結果でしょう。」

やっぱりか。
ただの偶然じゃないってことだな、こりゃ。
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