刀剣乱舞

□『俺の嫁さん@〜きちゃった♪編』
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あれよあれよという間に職場から強制連行。
拉致られた末に専用の装束を無理矢理着付けられ、きつね型の式神一匹と一緒にでかい日本家屋に放り込まれて、

「はい、今日から『審神者』業務頑張って♪」

――――などと、ふざけたことをぬかした政府役人と画面越しに舌戦を繰り広げたのが二日前。
そして今日、じたばた足掻いたところで現状は好転しないことを漸く受け入れ、「仕方ねぇ、取り敢えず一仕事まず手をかけてみるか。」と気持ちを切り替えて初めて行った鍛刀で舞い降りた神様は。
………ぶっちゃけ、この世の『モテない系男子』の敵代表みたいな面構えでした。

「―――僕は燭台切光忠。青銅の燭台だって切れるんだよ?…あ、あと、得意料理は肉じゃがとずんだ餅♪君は和食派?それとも洋食派?何でも君が好きなの頑張って作るから、好みのものとか教えてほしいな!」

………キラキラと眩しいイケメンの笑顔で目の前がチカチカする。
というか焼ける。
熔ける。
網膜焼ききれる、やめれ。

「………ぇー…と、」
「ん?なぁに?」
「近い。」

こっちが目シパシパさせながら言葉選んでる内に、件のイケメンの笑顔がすぐ目の前。
近い、近すぎる。
何でこんなに近づいてんのこの人。
って違うそうじゃない。

「………つかぬことをお聞きしますが付喪神様。」
「なんかその呼ばれ方、よそよそしいなぁ〜。」
「いや、初対面でよそよそしいも何も―――――ぁれ?」



―――初対面?



自分で言った台詞のくせに無視できない違和感を覚えて、続く筈だった言葉が宙を彷徨う。
初対面………の、はずだ。
筈なのだけれども、目の前の相手の顔を見つめていると、自分で言ったそれにさっきから覚えている違和感が、「それは正しくない」とどこからか強気にぐぃぐぃと主張してくる。
知ってるだろう?(なにを?)
知ってるはずだ。(だから誰を?)


(……コイツを?)


いや、神様に対してコイツとか失礼だけども。
いやしかし、自分の記憶をいくら掘り返してみても、目の前の相手と顔を会わせた記憶などどこにも………………、

「………んン?」



……………待て。



「………ちょっと、待て。」



『燭台切、光忠』?



「…………まさか。」



まさかまさか……………いや、そのまさか―――なのか?
って何回まさか言ってんだ自分。





「………………………みっちゃん…?」





間違っていた場合のフォローを考えておきもせず、ただもう、そう思考が辿り着いた瞬間には勝手に口から転がり出ていた。
いやまさかそんな、なんて思いつつ確信めいたその感覚に半ば呆然として相手の顔をまじまじと見つめていたら、目の前のイケメン………『燭台切光忠』の目が細くなり、それから華やぐような満面の笑顔に変わる。



「―――はい、“みっちゃん”です。…ふふ、やっと気づいてくれた。」



見た目『ワイルド系俺様スタイリッシュイケメン』な付喪神様はそう言うと、その一見鋭い眼光の金色の瞳を蜂蜜みたいに蕩けさせて更に近づく。
近い近い近い。
……けれどさっきみたいにちょっと離れて下さいとは拒否りにくい。

「………置いてかれて寂しかったよ。僕をひとりぼっちにしないって、言ってくれたはずなのになぁ………、」
「いや、俺も好きできた訳じゃ、」
「ん。知ってる。…だから追いかけてきたんだ。君がいない『あの場所』にいたって、意味が無いから。
……それに言ってくれただろう?『僕』に動く手足が、身体があったら、『およめさんにしてくれる』って。」

すぐ間近で囁くような甘い低音に鼓膜がぐちゃぐちゃにとけそうだ。
長い睫毛の奥できらきら光る蜂蜜みたいに甘そうに潤んだ瞳が、薄すぎず厚すぎず形のいい唇が動く様が、色白の肌にほんわりと朱色が混じる様がむちゃくちゃに色っぽい。

………って、いやいや待て待て揺らぎすぎだろ自分、正気にかえれ。
どんなに綺麗で美人で(その上性格もいい)イケメンっつっても、所詮相手はイケメン…………って日本語おかしい、まだ頭働いてない俺やっぱり落ち着け冷静になれ自分。

「いや『嫁さんにしたいぐらい』とは言いましたけれども俺男の子でお前も男の子だからまず『嫁さん』の定義が宛てはまらな、」
「―――やっぱり、女の子の方がいい……?やわらかくて、可愛いのの方が、君は好き?……僕は刀の上にこんなだし、君の好みには当てはまらないかもしれないけど………君のことが、大好きなんだ。どうしても一緒にいたい、叶うなら君の一番になりたい。…君も、『今の姿じゃない僕』の時に、それを許してくれただろう?ずるい言い方かもしれないけど、でも………だって僕が一番、君のこと好きだし、かっこいいと思ってるし、優しいところだっていっぱい知ってるし、お料理もお掃除も女の子に負けないぐらい頑張ってやるよ?君が寂しくならないように、毎日おはようとお休みも言って、君が毎日笑顔でいてくれるように頑張るから。僕に出来ることはなんでもするから……、だから…………………、」

見た目凛々しいイケメンが情けなく眉尻下げて、不安そうに目を潤ませながら、黒い手袋の手で同じ男の俺の服の端を握っている。
………俺はホモじゃないし、同じ野郎のそんな表情に揺らいでほだされたりなんてしない。
―――通常なら。
(なんかどっかからさっき滅茶苦茶揺らいでたじゃねぇーかとか突っ込まれた気がするが気のせいだ気のせい。きっと疲れてるんだよ俺多分。)

けれど……なんということでしょう。
見知らぬイケメンならともかく、相手が『みっちゃん』とならば話は別だ。
別になってしまうのだ、恐ろしいことに。

滅茶苦茶揺らぐ。
罪悪感半端ない。
こっちまで辛い、切ない。
そんなすがるみたいな、仔犬みたいな目で見つめないでほしい。
可愛い、いとしい、…………ムラムラする。

(っておい、最後の思考やばすぎだろ。)

そこまで堕ちたのか自分。
たかがこの一時間にも満たないやり取りでそんな呆気なく。
―――ちょろ過ぎる上に下衆い、……お前のモラルはその程度かと軽く絶望する。

「………っ…………、やっぱり……、」
「…?」

軽く自分の思考に埋没していたら、気付けば相手は俯いていて、目の前には相手の旋毛(つむじ)が見えている。
視界の端で、自分の服の端を握る相手の手が小さく震えていた。

「……やっぱり……、だめ……、なのか…なぁ……?」

俯き続ける相手がどんな顔をしているのか気になって覗き込めば、…………あぁ、だからイケメンがそんな元が凛々しい顔で泣き笑いなんざ浮かべて見せても……そんな、今にも涙溢しそうな潤んだきれいな目で、そんなきれいな唇歪めながら一生懸命笑ってみせようとしたって、だから。

「―――だから『別枠』だっつってんだろ。」

え、とか相手が声上げた気がするが気のせいかもしれない。
今は細かいことに気が回らない。
余裕がない。

「………。」
「…え、ぁ……え……?」

ぱちぱち、と忙しなく綺麗な色の眼を瞬かせるイケメンを下敷きにしてる自分。
―――はいアウト。
さようならノーマル。
こんにちは異世界(アブノーマル)。
年齢=彼女いない歴=童○年数な自分、一生ぼっちでもまさか男の『嫁さん』に胸キュンさせられて押し倒してしまうとは思いませんでした。
予想外です。

(―――あぁ、でも、『兆候』はばっちり出てたかもなぁ……。)

つい先日までいた元の職場で、『刀』の状態の目の前の彼を相手にしていた日々を思い出す。
………あれでだいぶ、というかどうしようもないくらい、疾うにほだされてしまっていたことを自覚する。
今更だけど。

いや、ほだされ……とかずるい言い方はやめよう。
『特別』だととっくに知ってる辺りで、無意識でももう認めてしまってる。
………俺って変態だったんだなぁ。

「………俺さ、『笑顔が可愛くて』、『健気』で、『料理上手』な嫁さんが理想なんだけど。」
「………うん。」
「あれ理想が先より、『実物』が先ってことだったのかなとか、今思った。」
「………?」

小さくことり、と首を傾げてみせる表情に暗さはないけれど、瞳はまだ室内照明に濡れて光りながら揺れている。
………これからなにを言われるんだろう、って不安なんだろう。

「………よく言うだろ?…好みの理想(タイプ)は、そんとき惚れてる相手が理想だって。」
「…………。」
「見た目は同じ男としてはムカつくぐらい『格好いい』系だけど、………笑った顔とか性格は『可愛い』系だよな、みっちゃん。」
「……………ぇ、」
「いきなり置いてった俺のこと『健気』に追っかけてきてくれたし、………『料理』はまだ食えてないけど、期待していい?」

猫みたいに真ん丸く見開かれた瞳。
そこにじわじわと理解の色が染み渡っていくのを見守っていたら、また金色が蜂蜜まぶしたみたいな色に蕩けて、濡れて光る。

「………それ…、僕も期待していい……のかな?」

床に綺麗な蒼みがかった黒髪を散らしながら、白い肌と蜂蜜みたいに甘そうな瞳と、同じ男の筈なのにやわらかそうな唇とが誘っている。
………ように見える。
経験値浅い、妄想しがちな童○野郎の脳味噌は単純かつ自分の都合のいい解釈しか弾き出さないらしい。
しかし妄想だとしてもエロいものは、エロい。
俺のみっちゃんは性的に可愛い。

差し伸べられた手に逆らわず引き寄せられた先で、彼のこれまた貝殻みたいに形のいい耳に吹き込むように『肯定』の言葉を。
………直後、長い腕に力一杯抱き締められて一回呼吸を忘れた。

少々の息苦しさと。
ぎゅぅ、とくっついた相手からするいい匂いと。
白い首筋がほんのり紅く染まるその艶っぽさに、自分の呼気に熱が混じるのを自覚して内心舌打ちをかました。

この先の自分の忍耐力やら自制心やらに不安を覚えつつ、取り敢えずわんこみたいにすりすり、と擦り寄りながら『嬉しい』と『好き』をこれまたエロい声で口にするみっちゃんを黙らせるべく、腕に力を込めて強く抱き寄せる。
「動揺するからそれ以上は黙って。」と本音そのままに口にしたら、一瞬無言になった相手はそれに笑うでもなく。
更に耳まで紅くしたかと思うと、予想以上に柔らかくてしっとりと乾いた気持ちいい感触のそれを、小さく湿った音を立てて俺の首筋に押し付けた。

―――はい、お仕置き決定。



続?

***

※『審神者』は元政府直属の研究機関の研究員の一人。それなりの役職にも就いてました。
『みっちゃん』はその研究機関で管理されていた研究サンプルの『燭台切光忠』の分霊。
研究者と研究対象という立場ではあれど、とても親しく付き合っていました。
 

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