短編集

□3:この日常もきらいじゃないけど
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ホグワーツでの私の日課。

それは毎日放課後に、

私の密かな片思いの相手である
魔法薬学教授に質問をするため、

地下牢教室を、訪問すること。





毎日毎日、訪問を繰り返す。

幸せな日課である。









とんとん




今日もいつものように8時きっかりに
教室のドアをノックすると、

いつもと同じ、低い声が、



「入れ」



そう一言。





最初のころは、

毎日教授の自室まで呼びに言っていたが、

最近では毎日この時間、
私が欠かさず質問にくることを
覚えてくれているのか、

教室で待っていてくれるようになった。




これだけで、私は大きな進歩だと舞い上がる。



「失礼します!」



うれしくてにやけそうな口を
なんとか笑顔にすりかえると、

教室の扉をあけ、中に入った。






そこには当然、
スネイプ教授と私以外に誰もいない。



いまだに緊張する自分を落ち着かせながら、


教壇にある机で、
書類に羽ペンを走らせていた手をやすめ、
こちらをみるスネイプ教授に近づいた。



いつも膨大な書類の確認に
忙しいのにもかかわらず、

ここでちゃんと待っていてくれてる彼に、
うれしくって胸がいっぱいになる。






…私がここへくる目的は、
純粋な勉強のためじゃなく、

彼に会いたいという、
ただ、それだけなのに。



それなのに、スネイプ教授は…

忙しい山ほどある仕事の時間をさいて、
こんな私につきあってくれる。



うれしくって、

でも、本当にこれでいいのか…
急に感じた少しの罪悪感。

口を開いては閉じて、を繰り返していると、

先にスネイプ教授のほうから放しかけてきた。




「なんだね」




いつものように、
訝しげに眉間にしわでも
寄せているのだろう

と思って顔をあげると、


思いのほか心配そうな彼の瞳と目が合い、
心臓が早鐘を打ち始める。



「あ、い、いえ、
 すみません。質問しにきたんですけど、」



私はその心臓の速さをごまかすかのように
いつもどおり質問をはじめた。


時間が惜しかろうに、
私の質問に、教授はゆっくり、しっかりと、

丁寧に説明してくれる。



わかりやすくて、とても勉強になる。

さすが、やっぱり先生だなぁ。
なんていまさらながら思ったりした。




「それじゃあ、
 この草はほかにどんな薬への応用が…」



私が数個目の質問をしようと、
愛用の薬草辞典の、
とあるページをゆびさした。



「どれ…」



教授もその教科書を覗き込む。



「あぁ、これならば……」



そう答えかけて固まる教授。

そして私も固まった。



タイミングよく2人同時に顔を上げて、

そしてお互いの顔が、
息遣いさえ聞こえるほどに
近いということに気づいたからだった。

あと数ミリ動けば、触れてしまえそうだ。




そして数秒ほど固まったあと、

どちらともなく ばっと身を引く。




いくらなんでも、近すぎる・・・

辺りに気まずい空気がながれた。





「す、すみません。」


「あ、あぁ。」




きっと私の顔は今、
ゆでだこのように赤いのだろう。





おそるおそる教授のほうを見ると、
彼はそっぽを向いていたが、

その黒髪から覗く耳の先が、
私と同じく赤くなっているのに気がついて、

私は目をまるくした。



同時に嬉しさもこみ上げる。



これは期待していいのだろうか。

いや、教授にかぎって、
そんなことはないだろうけれど。










2人が少し落ち着いて

質問が再開されたのは、

それからしばらくしてからだった。










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