短編集

□1:あれが私の好きな人
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もうすぐバレンタイン。

グリフィンドールの談話室は、

先ほどから
恋話でもりあがる生徒達でいっぱいだ。




「はぁ…」




そんな中、居心地悪そうに
ため息をつく少女が一人。



そう、私である……。





「*****は好きな人っているの?」



「へっ!?」




とつぜん、ロンに話しかけられた私は

びっくりして変な声をあげた。




「そういえば、*****って
 そういう噂全然ないわよね。
 顔も性格も頭も悪くはないのに。

 好きな人とかいないの?」




その言葉に、
ハーマイオニーも興味津々といった感じで
振り返る。


ハリーもいつの間にか話に加わろうと
ロンの隣のソファーに腰掛けて
私を見ていた。




「いや、私は…
 なんていうか…」




そんな3人の勢いに少々ひるみながら、
私はもごもごと言葉を濁す。





「なに?言えないような人なの?」


「気になるな。誰なんだろう?」




「あはは、秘密だよ。
 居る事にはまぁ…いるんだけど…」




私は手をぶんぶん振って
あいまいにごまかすと、

そそくさと逃げるようにその場を立ち去った。




後ろから引き止める声が聞こえたが、
この場に残って話を丸め込める自信は
今の私にはなかったのだ。











そう、私には好きな人がいる。

しかし、とてもじゃないけど
皆に話して共感してもらえるような人では
ないことはたしかだ。




だって、その人は

陰険根暗贔屓教師とか言われて皆に嫌われてるし、

眉間にはものすごいしわ。

愛想も悪いし、
なにより、何十歳も年上だった。





そう。魔法薬学教授の、
セブルス・スネイプ。

彼が私の好きな人である。





でも、そんな嫌われものの彼は、

人間関係が不器用だから愛想が悪くみえるけど、
本当はとても優しい良い人だったりすることを
私はちゃんと知っている。



……だから、私は彼が好き。





「これ、言っても
 だれも信じてくれないけどね」





とぼそっとつぶやいたつもりの言葉は、

虚空に消える前に誰かの耳に入ったようだ。




「なんのことですかな? Ms.*****」




噂をすればなんとやら。

声をかけてきたのは、
先ほどから私の脳内の90%ほどを支配して
占領している人物、その人であった。




「な、なんでもないです!
 ボーっとしていました!
 うっかり独り言です!」




ははは、と軽く愛想笑いを振りまきながら、ごまかした。


が、内心どきどきがとまらない。




「このような廊下のど真ん中で
 ぼやぼやしているなど…
 不注意極まりないですな」





彼はそういうと、私の横を通り過ぎた。





「…忌々しい双子のばかげた悪戯に
 付き合いたくなければ、
 もう少し注意して歩くことだ…」




通り過ぎざまに囁くように
ぼそりとつぶやく声を
私は聞き逃さなかった。




「!!」




何のことだろうと見回すと、
廊下のど真ん中、数歩先のところに、
魔法の気配のあるトラップが仕掛けられているのに気がつく。

もう少し、声をかけられるのが遅ければ
私はまんまと罠にかけられていたわけだ。


「はぁ・・・
 フレッド!ジョージ!
 これはどういうことかな?」


少し怒りまじりの笑顔で廊下の角にある
2つの気配にむかって呼びかけると、


「「あれ、ばれたちゃった?」」


思ったとおり。
双子のフレッドとジョージである。




「*****がぼんやりしてるなんて
 めったにないもんだから・・・」


「そう、だから悪戯心がくすぐられたってわけさ」




口々に言う双子に拳骨で軽く一発こつくと、




「私は今日は機嫌がいいからね。
 これくらいでゆるしてあげる。」




ぽかんとする双子をよそに、

私は踵をかえし、
もと来た道をスキップしながら
帰っていった。








ほらね。
彼、やっぱりやさしいでしょう?


さりげなく。本当にさりげなくだけど、
ちゃんと見ていると
見え隠れするやさしさに、



私は気がつくとひかれてた。






あれが私の好きな人
 

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