流転の謳歌。

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「あー…いってぇ」
「……」

ほむらに引きずられるようにしてあきらはずるずると歩く。その通った道にはまるで赤い絨毯でも敷かれているかのように血の帯が広がっていた。

「あきら、魔力で修復できそう?」
「頑張る…」

腹に穴が開いていた。
なかなかどうして、あきらもタフなようでほむらについてきている。

「そういうほむらも傷だらけじゃんか」
「私はまだ大丈夫よ」
「そっか」

虚勢でも、本当でも、どっちでもいい。満身創痍のはずなのに、苦しいはずなのに、なんだか時間は意義と意志に満ちあふれていた。重厚で、濃厚で、生きている、そう実感できる時間だった。

「っ…」

ほむらの肩からあきらがずり落ちる。ほむらは慌ててあきらに手を伸べようとするが、その指先は不自然にこわばった。

一方であきらは不思議そうな顔をしている。
そんな連想もできない子供のような表情を浮かべながら、あきらは横たわっていた。まるで自分が置物のような感じがする。

「あ…」

あまり自由の効かない手で腹をまさぐる。ぱりぱりと鈍い音が聞こえた。血が赤い結晶のように凝固を始めている。しかしその澄んでいた赤も少しずつ、少しずつ黒ずみ始めた。ソウルジェムの色のように、あきらの魔力の容れ物である肉体が、代わり始める。穢れ始める。

あきらは悟った。時間はまだ残されている。しかし、それでも魔女化が始まった事。

「嘘…嫌」
「ほむら、別に決まってた事だって」
「嫌よ、せっかくあなたと戦えるはずだったのに…!」
「私は誰も恨まないさ」

それよりも、とあきらは周囲を見渡す。気配が近づいてきている。

「ほむら、私はどうせ駄目なんだ……早く逃げろ。行け」
「……」

しゅ、と何かが振り下ろされる。一瞬魔力の波長を感じ、その影がほむらによって弾かれた事が分かった。

あきらはさっと表情を変える。

「ほむら!!」
「私は単純に…」

軽い発砲音が四方八方から少しずつズレて聞こえる。ほむらが魔法を使いながら戦っている事は容易に想像がついた。

「あなたを死なせたくないのっ」

しかしそんな無茶な魔力の消費が上手くいくわけない。目に見えて分かるスピードでほむらの砂時計が偏っていく。

「もうやめろ…ほむら…」
「……っ」

ほむらの肩から血が吹き出る。それでも彼女はやめない。必死に細い足でふんばりながらくるくると回る。傷口が増えていく。血を散らしながら踊るように、ほむらはあきらを守り続けた。

暖かい涙があきらの頬を伝ってコンクリートにしみる。こんな気持ちになったのは、いつぶりだろうか。

そんな一瞬の感傷に浸っている場合ではなかった。荒い息をする彼女の背後に影が迫る。

「ほむら!後ろ!!」
「あ…」

遅かった。あきらの目の前でほむらは吹っ飛ぶ。思い切り地面に叩き付けられた身体は痙攣している。

「ぐ…く、そっ…」

じわり、じわり、絶望が足音を立てて近づいてくる。
まとわりついて、心を覆う。
ほむらも、泣いていた。
あきらも涙が止まらない。

勝たせることはできないのか。
幸せな結末なんて、望む方が間違っていたのか。

胸がいたい。絶望に締め付けられて息ができない。

ざり、と砂を擦る音がした。

「もういいんだよ、2人とも」

「あ……」

そこにいたのはミスキャスト。けしてほむらが望まなかった人物。

「まどか……まさか……」

絶望に覆われていたほむらとあきらに向ける笑顔は、太陽のように眩しい。



   「ごめんね」



その意味は、察するには容易で、あまりにも残酷だった。


 

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