流転の謳歌。

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相変わらず結界はない。

巨大な魔女の集合体は、舞台装置へと名を変えて高笑いを続けている。

魔女はまだ、夢見ているのだろうか。なんせ、自分に向かってくる使い魔らしきものたちはみんな魔法少女のような姿をしている。

バズーカを連射しても、石油トラックの爆発に巻き込んでも、魔女は無傷だった。さして驚く程のことでもない。魔力を持った武器でさえあれほどの苦戦を強いられるのに、ほむらのダメージを与える手段はたかだか人工物だ。今回も前回同様となりには誰もいない。

胸元から僅かに出血している。魔力でさっと塞ぐと、先ほど自分を突き刺した影に向かってマシンガンを構えた。

ふとその瞬間右手に強烈な打撃が入る。よく見れば鎖、よく見れば槍、よく見れば…

「杏子…」

人間の姿をした影は信じられないスピードでほむらを囲む。両サイドから押さえられ身動きがとれない所に、高笑いが脳を揺さぶってとんでもなく不快だ。

そして冷たい何かが額に突きつけられる。

マスケット銃を突きつけた影は、また愉しそうに笑った。

きこえる訳もない言葉がきこえる。

何で、お前が生きているの、巻き込まれた私達が死んでいるの、

あり得ないのに、自分の妄想のはずなのに、魔法少女という闇たちはほむらを捕らえ続ける。



そういえば、魔法少女の闇を祓うのもまた、魔法少女だという事を、忘れかけていたのかもしれない。


「ほむらああああああああ!!」


ほら、魔法少女がやってくる。



ワルプルギスの夜に少しでも気配を察されないように、生身のままずぶぬれで走った。

そして今、空中で使い魔に追われているほむらに向かって、ビルの屋上から身を投げる。

両腕には細身だが巨大な鎌が握られ、真っ逆さまだが全身を捻りながら大胆に切り込んでくる。

彼女は魔法少女も躊躇いなく切り刻んだ。残った高笑いに身体を震わせ、支えを失ったほむらと共に地面に落ちる。

「あなた…来たの…?」
「いやあ、魔女が来てるのに戦わないとか、魔法少女じゃないだろ」
「……私と、」

ほむらが息を呑んだ。そんな彼女をあきらは微笑とともに見つめる。視線を交わらせながら着地し、上空に浮かぶ魔女を睨んだ。

「……私と…っ、戦ってくれるの…?」

その言葉にあきらは飛び上がって応えた。魔力を練り上げて、彼女の周囲から幾本もの鎖鎌を出現させる。あきらを守るように浮遊する不思議な武器は、黒い影をまといながらも何故か美しく映った。


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