流転の謳歌。

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巴マミの家には、今でも彼女の匂いがする。マミがいた証拠が残っている。

この真実を知らずに死んだマミは、ひょっとしたら、幸せだったのかもしれない。

「う…」

何だか持病の発作みたくなってきた、まるで身体が金縛りに遭うような感覚。がちがちに固まった身体に、それでも覚える、腹の中を何かが這いずり回っているような吐き気。しかし吐き気を覚えるそんな身体が偽物だと思うと、また笑えてきた。

彼女がやっていた手順を踏んで茶を煎れて1人で啜る。今更寂しいもない。ただ、自分が現実にいないような奇妙な気分になる事が多かった。

あの後誰にも会っていない。まどかも、ほむらも、キュゥべえも、ひょっとしたら、自分を見捨てているのだろうか。いや、見捨てられても何らおかしくない。だって自分はまどかの期待を裏切り、杏子を殺した。何故消滅が決まっている自分が生きて、未来ある杏子が死ななければならなかった。

また守れなかった。杏子は、さやかを守れたのだろうか。

もうすぐ、ワルプルギスの夜がやってくる。


「…インターホンも押さないたぁ、あんたなかなかやるな」
「悪ふざけに来たわけじゃないのよ」
「悪かったよ、お茶でも煎れるか?」
「いらないわ」
「そうか」

そういえば飲む事を忘れていた。苦くなったそれを飲み干すと身体を反転させる。

暁美ほむらだった。見たこともないような表情を浮かべていた。あきらの瞳が揺らぐ。

「…何の用だ?」
「……」

きゅ、と唇を噛みしめて眉間に皺を寄せて。あきらは今までに彼女のこんな表情を見た事があるか記憶を辿った。もちろん、自分に対して浮かべた事はない。強いていえば、まどかに似たような目線を投げかけていたような気は…する。

「夏目あきら…」

じっとほむらを見つめる。ふと伏せていた目を上げた。罪悪感に苛まれた、暗く、それでも澱まず、強い眼だった。

「自分を恨まないで」
「え?」
「もちろん死んだ杏子や、美樹さやかも」
「何を…」
「キュゥべえは別にいいかもしれない」
「ほむら、説明を…」
「あなたが恨まなければいけないのは」

僅かに強まる語調。息をのんでその姿を、凛とした佇まいを凝視する。

「私よ
 私だけを、恨んで」

ほむらの頬を、何かが伝った。

「私は、それでもあなたに申し訳ないと思うことしかするつもりがないみたい。

あなたの為なんて、考えることができないの。

すべては、あの子……まどかのため」

「ほむら…?」

「キュゥべえから聞いたわ、あなたの真実。そしてたどり着いた」

暁美ほむらは訥々と語る。少しずつ無機質になる声。代わりに滲み始めるのは確固たる決意。

時間を渡り歩き、何人もの魔法少女に出会ってきた特殊な魔法少女は、その数多の時間軸の中“初めて”出会った魔法少女に告げる。

「あなたがここに現れてしまったのは私のせい。あなたの体質は時間の流れに逆らえない。覆されることもない。

私は数多くの時間を過ごしてきた、何度も、何度も巻き戻って…幸せな結末を夢見て…でも、私が夢を見た代わりに、あなたは不幸になってしまった」

ほむらは泣いていた。嗚咽を漏らすことはなくても、純粋すぎる涙はほむらの感情を嫌でも教えてくれた。

「あなたのソウルジェムは、もうすぐ限界なのよ」

それがロジック。覆されることのない真理。

ほむらが時間を巻き戻っても、あきらのソウルジェムは巻き戻らない。同時に存在するには矛盾した願いは、因果となって本来なら無関係であるはずの2人を、あるいは6人を巡り合わせた。

そして、運命はワルプルギスとあきらの戦いを強いる。

「私はあなたと戦う事なんてできない」

「私のせいで、あなたは終わりを迎えてしまう」

「私の事が憎いでしょう」

「それで構わない」

「だから、戦わないで、私と」

「だから――」


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