流転の謳歌。
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その魔女は、コンサートホールの特等席に陣取っていた。
全員が同じ顔に見えるオーケストラが奏でる音楽に合わせて、鎧甲冑を身に纏い、可愛らしいピンクリボンを首に付け、人を傷付けるための剣を持った人魚はゆらゆら揺れる。
あきらにはその動きがたまらなく滑稽に見えた。
「覚悟はいいな!!打ち合わせ通りに…行くぞ!!」
「うん!
さやかちゃん!!わたしだよ…まどかだよ!!聞こえる?私の声が解る!?」
人魚の魔女は、演奏を邪魔する部外者を許さない。
左手に持った剣を大きく振りかぶってまどか目掛けて降り下ろす。
あきらは無言で飛び上がり、それを打ち返すように鎌を振った。金属音が響き渡る。
「あきらさ…」
「アンタは怯むな…呼び続けろっ!!」
杏子が手を合わせ魔力を解放すると、まどかを守るように赤い鎖の壁が出現した。
まどかは自分の役割と問われた覚悟を思いだし、拳を握りながら胸に手をあて一心に叫ぶ。
「もうやめて!!さやかちゃん!!」
「聞き分けがねえにもほどがあるぜ…さやかあっ!!」
重力に身を任せあきらが落ちると、それに代わるようにして槍を構えた杏子が飛び上がる。
剣を受け止めながら鎖を振り回し、さやかの動きを制限しようと試みた。
その間にあきらは走り回る。何とか魔女の背後に回ると、そっと彼女の背中に手を伸ばした。いつものソウルジェムを浄化するイメージをする。
「!!」
すると魔女が土台ごとぐるんと反転する。“さやか”と目が合った。どこまでも底無しの闇が広がっていた。もう彼女には会えない――何となくそんな気がして、次の瞬間彼女がぐるりと振り回した剣によって吹っ飛ばされていた。
「いっ…」
がしゃりと音がして杏子の作った壁が崩れる。くらりと目眩がして、見れば額から血が流れていた。隣を見れば杏子も同じ攻撃を食らったらしく、互いににやりと笑う。偉い事に、まどかはもう彼女たちを労ることはない。心配そうな顔はすれど、今自分が一番向かわなければならない敵を真っ直ぐに見つめていた。
「……っ、さやかちゃん、やめて!
お願い!思い出してっ!!
わたし達に気付いて!!」
杏子は飛び上がる。
立ち向かえば立ち向かうほど、嫌が応でも感じるさやかの魔力。そして一定のリズムで響いてくる、彼女の憎しみの波長。
「いつぞやのお返しかい?そういやあたし達最初は殺し合う仲だったっけねえ…」
攻撃をふせぐのが、正直なところ手一杯。時には出遅れて、時には力負けして、修復の追い付かない身体からは血が飛び始める。
「怒ってんだろ?
何もかも許せないんだろ?
…解るよ、好きなだけ暴れなよ、付き合ってやるからさ
それで気がすんだら、目ェ覚ましなよ?」