流転の謳歌。

□07
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「おっ、来たな」

軽く手を挙げて彼女たちに応じる。何というか、年上気質なのか、以外と心配性なのか――笑いそうになるのを押さえながら、彼女たちの視線を追った。

遠くに十字架のような物が立っていて、細く青い光が見える。耳を澄ませば閃光の弾ける音が聞こえ、激戦である事が容易に想像できた。

「…あのバカ手こずりやがって」

囁きが聞こえる。杏子を見れば、普通に目があった。





「さやかちゃん!危ない!!」

ここは魔女の結界――白黒の、モノクロームの世界。一度中に入ってしまえば、まるで影がゆらりゆらりと揺れているだけの様な魔女と同じ、自分たちにも影が落ちて、互いの姿が眩しく見える。
果たして、さやかに杏子とあきらは如何に映っているか。

「…ったく、見てらんねーっつーの」

くわえていたアイスキャンディーの棒を吐き捨て、もう一度武器を構える。ぐっと力を込めた瞳で目の前の魔女を見据えた。

「さやか、大丈夫か?」

左の大腿部が出血している彼女が立ち上がれるように、そちらにまわって手を差し伸べる。

「今日はもう杏子に任せとけ。下手糞に戦ってても消耗するだけ…」

ぱん、と無機質な音が響いた。手が明らかな敵意をもって弾かれた。少しだけ唖然としていると、その隙にさやかはさっと立ち上がる。少しよろけた時に手を貸す勇気が出なかった。

「邪魔しないでよ、一人でやれる…」

そう言って駆け出したさやかにぞくりと寒気がする。気付いた時には叫んでた。

「杏子!!さやか止めろ!!!」
「あぁ!?」

振り返った杏子の目の前でさやかは飛び上がる。二人はその舞い上がり、斬り上げ、跳ね回り、突き進むその黒い影を追うしかない。魔女のすべての鋭い刃はさやかに集中する。
身をよじってかわし、手頃の物は切り払い、しかしその目は魔女しか見ていない。

危ない、よけろ、口々に叫ぶが、さやかは聞こえなかったのか…それとも聞く耳を持たなかったのか……

さやかの白い刃が魔女の身体に突き刺さるのと同時に、どすどすとえぐい音を立てて魔女の細長いツタもさやかの身体を貫いた。

「さやかちゃああんっ!?」
「だから…もうやめ……」

あきらは舌打ちをしてから走り出す。武器の鎌を構えたまま彼女の近くに行って、今度こそは問答無用でとってかわるつもりでいた。が、その足は耳に流れこんできた不気味な笑い声のせいで止まってしまった。

「……は…あはは…
あははっ……あははははははは!!!」

顔を引きつらせるあきらを尻目に、さやかは先ほどの仕返しといわんばかりに魔女を串刺しにする。

「さやか……」
「…あははっ…本当だぁ……その気になれば…痛みなんて完全に消しちゃえるんだ…」

十字架が傾き、魔女の世界は壊れていく。

その征服者の魔法少女の笑い声は、いつまでも響く。

「ふふっ…あっはははははははあっははきゃははははは!!!!!」

何かが、壊れる音がした。


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