流転の謳歌。
□06
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「待って!!さやかちゃん!!」
人気のない歩道橋の上に2人の少女が対峙する。よくこの場所が分かったもんだと、どちらかといえばまどかに賞賛を送りながらあきらは彼女の後を追って走った。
「駄目だよこんなの!絶対おかしいよ!!」
「まどか!!」
突然現れた存在が癪だったのか、さやかは軽く睨みをきかせる。
「邪魔しないで!まどかには関係ない話なんだから」
「でも…っ」
「私もか?」
「あっ…え、あきら…さん」
「へぇ」
後ろから赤い髪の少女の視線を感じたが、とりあえずさやかから目は離さない。
「何してんだよ……死ぬ気か」
「あきらさんにも分からないんだ!!こいつは…」
「いくら許せない事だっつっても、自滅するんじゃ意味がないだろ!無駄にソウルジェムを穢してどうする」
「だって!!あきらさんなら何とかできるんでしょ!?」
「そうじゃねえだろ!!」
ああでもない、こうでもない、とかなり本格的な言い合いになってきているうちにまどかはオロオロしだす。こんなはずじゃなかった。あきらも本来はこんな性分ではない。気が立っているのが分かった。待ちぼうけを食らった少女も槍を弄びながらそれを傍観していたが。やがて痺れを切らしたようにそれを振りかざした。
「いつまでも2人でやってんな!!」
あきらは左腕に鎌を出現させてそれを受け止める。もう一度言うが、彼女は面倒くさがりで、消極姿勢で、現状肯定主義で、省エネ精神で――ともかくこうやってさやかと言い争いをしている状況すら異常であり、恐らく先ほどのキュゥべえとの会話によって精神がぐらついているのだろうが、いつもとは180度違うテンションであり、相当に昂ぶっていた。
だからこういった事までもが気にくわない、かなり嫌な部類の八つ当たり人間になっていたのである。
「邪魔すんな!」
と。普段なら絶対ありえないと思われる反撃を試みてしまった訳で。
美樹さやかとの論争はそっちのけで両手に鎌を構え、完全に戦闘態勢に移行していた訳で。
ガキンと武器の合わさる音が響く。ギリギリと不安定に力関係が揺れる中、あきらは間近にあった少女の目を見る。
「あたしは佐倉杏子。あんたは?」
「夏目あきら…!」
左腕でそれを合わせたまま右腕の鎌をくるくると回す。軽く持ち替えて長いリーチを取ると、そのまま遠心力に任せて大きく振り回した。もちろん大振りの攻撃だから避けられる。その瞬間杏子が飛び上がったのを見逃さない。鎌に振り回されてしばらく弧を描き、身動きが取れなくなっている杏子に向けて右腕の鎌をぶん投げた。
しかし杏子もそれを読んでいたようで、槍を正面に構えると飛んでくる動きに合わせて軽く振った。上手に力をいなされてあきらが放った鎌はあっさり地に落ちる。所有者から遠く離れたそれはやはり霧散して消えた。
杏子が着地した音とあきらが地を蹴った音が同時に響く。また接近戦にもつれ込むが、仕方ないといえば仕方ない。2人の武器はいずれも中距離使用型であるため中々決定的な一打が繰り出せない。遠くでまどかが泣きそうな目でこちらを見ていた。
「じゃああんたがワルプルギスの夜…一緒に戦うんだ……!!」
「そうだよ。ほむらが言ってたもう一人ってのはあんたか、佐倉杏子」
「へへっ…じゃあ、見てやるよ!!その実力」
そう言った瞬間、目の前で何かが爆ぜた。堪らない光線があふれ出すのを感じ、反射的に目を庇いながら思わず後ずさる。