流転の謳歌。

□04
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まどかは何ともいえない気持ちを抱きながらその玄関を引いた。
どうせ鍵がかかっているだろうと思っていたのにあっさり扉は開いてしまう。

「えっ…」

慌てて駆け上がって、そして胸をなで下ろした。

「あきらさん……」
「よ、」

そういえばマミの家にはあきらが居候しているのだった。
ふと見ると昨日の鬼の形相とは一転して無気力な顔つきになっていてぞくりと寒気を覚えたが、何だか彼女から離れる気がしなくて促されるままに腰を下ろした。
入れられた紅茶をすするが、お世辞にもおいしいとは言えなかった。

「マズイだろ」
「えっ、いや!!」
「いいよ、アイツには敵わないしな」

そしてあきらも一口紅茶をすすり、仰々しく「マズイ」と叫んだ。何だか悲しくなって、まどかは手に持っていたノートをぎゅっとにぎりしめた。

「それは…?」
「あの、お願いがあります……これ、この家に置いておかせてもらってもいいですか?」
「……見てもいい?」

言葉は返さず小さく頷く。そのノートをめくると、恐らく魔法少女のイメージ画…それもまどか自身の自画像らしきものが書いてあった。

「はは…」
「わたし…マミさんに約束しちゃったんです……魔法少女になる、って」
「はは…かーわい」
「でも…でも……」

あきらはノートを閉じると顔を上げた。顔を歪めて必死にまどかは涙を堪えていた。
言いたい事は、分かる。

「今更虫が良すぎるって…でも」
「いいよ、まどか」

ノートを机の上に…いつもマミが座っていた場所に置いて、代わりにあきらはまどかに薄く微笑みかけた。

「マミはあんたらに最期大事な事を伝えて逝ったんだ。それを忘れないでいてくれれば、それがマミにとっても幸せなはずだ」

少しでも気を緩めれば、昨日の光景がいとも簡単にフラッシュバックする。色が、音が、なによりあの時の激昂が。
そしてそれはたとえ見ていただけだといえど、まどかだって同じはず。

「あんな死に方、現役の私だってしたくないよ」

逃げるという選択肢が残されているなら、それを選んだって誰も文句は言わない。

「でも、もしかしたら今度はあきらさんが死んじゃうかもしれないって…」
「優しいな、もう少し自分の事考えていいのに」

確かに、ここを長い間守り続けていたマミが死んだ今、積極的に魔女を狩るのはあきらぐらいなものだろう。

「大丈夫、私はここにきたばっかりだからな。
すぐに他のベテラン魔法少女が来るよ」
「でも…」
「でもでもうるさい。まどかは契約をしない…それが正解って事だよ」

何だか疲れてしまった。
もう一眠りしようと思って腰を上げる。ふと下を見ていたまどかがまっすぐにあきらの目を見た。

「あきらさん」
「え?」

その目がやけに真剣で身構えてしまった。

「昨日マミさんは、あきらさんのお陰で全力で戦えるって言ってました。あきらさんは本当に魔法少女の希望だって。

言いたくないと思います。でも、わがまま言って、いいですか?」

まどかはぐちゃぐちゃに泣いていた。文法までぐちゃぐちゃだ。
そんな様子を見てふっと息を吐いてから、あきらは説明する。

自分の願いと、能力を。


 

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