流転の謳歌。
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数年前、家族でドライブをしていた。とても幸せだった。最後の幸せだった。
原因はなんだか分からない。とりあえず、あまりにも巻き込まれた車が多すぎた。証言を取ろうにも、唯一生き残っているのは自分だけ。
そして、その唯一の生存者はそれどころではなかったのだから、どうこうしようもない。
覚えているのは全身の痛み。鼻をつく匂い。視界の端にちらつく赤色。
『君の願いは?』
ひび割れた窓から見える、尻尾の大きな白い生物。
それがなんなのかも、それが何を意味するのかも分からなかった。ただ投げ掛けられた質問に無我夢中で答えただけ。
―――助けて
今思えば嵌められたのかもしれない。極限状態で目の前に餌をぶらさげられ、食い付かない奴がいようか。
気が付くと致命的な傷は全て消え、家族はいなくなり、普通ではない力を手に入れていた。
「考える余裕さえなかったってだけ…だから、あなたたちには私にできなかった事だから、ちゃんとして欲しいの」
よく考えて、少しでも後悔が残らないように――この辛い戦いを、乗り越えられるだけの見返りを約束できるように――
「選択の余地があるって事は、すごく羨ましいの」
初めて聞いたマミの願い。
そういえば魔法少女は互いの干渉もあまりしない。ひとえにされたくないから……というより、他人に興味がない。どんなに大人ぶっていても、やはり魔法少女である以上余裕なんてないのかもしれない。
「ねえ、マミさん!」
話の途中から深刻そうな顔をしていたさやかが口を開く。
「願い事って、自分の為の事柄じゃないと駄目なのかな?」
「え?」
「たとえばの話なんだけどさ、あたしよりずっと困ってる人がいて、その人のために願い事する…とか…できるのかなって…」
「さやかちゃん、それって上条くんのこと?」
「たっ、たとえ話だって!!」
まどかにそう言われると、さやかは顔を赤らめながら必死に切り返す。大体分かってしまった。マミと顔を見合わせる。彼女の目を見れば、大体何が言いたいのかは分かる。ぷいとあきらは顔をそらした。
「うん、可能だよ。前例もないわけじゃないし」
とあきらを見ながら嬉しそうに言うキュゥべえはさておき、マミは形の良い眉をひそめながら顎に指をかけた。
「でも、あまり関心できた話じゃないわね…
美樹さん。あなたはその人の夢を叶えたいの?それとも夢を叶えた恩人になりたいの?」
マミが問いかければさやかははっとなる。
「他人の願いを叶えるのなら、なおのこと自分の望みをはっきりさせておくべきだわ。
同じようなことでも全然違うことよ、これ」
「……」
「…マミさん」
「マミの言う通りだよ。もうちょい考えておいた方がいい。いざ後悔するとき、他人を恨みたい?」
「……うん、そうだね」
世の中は、特に魔法少女の戦いは、取り返しと繰り返しのできない世界にある。後悔だってする、希望を振りまく存在と言われても、誰かを恨むこともある。その矛先が他人に向くのは、めぐりめぐって自分の首を絞める。
この戦いが見返りを追い続けるものと解釈しているあきらの目には、さやかの悩みは深刻に映った。
「あたしの考えが甘かった。ごめん!」
「難しい事よね、焦って決めるべきじゃないわ」
「僕としては早いほうがいいんだけど」
「だめ!
女の子を急かす男は嫌われるぞ?」
「あはは…」