流転の謳歌。

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ふとその町に足を踏み入れた瞬間、あきらは露骨に嫌そうな顔をした。何か嫌な感じがする。自分の勘を信じきっている彼女にとってこれは辛い。

「……とことん不親切なやつ」

あの生物が招いたに等しいくせして、案内にも現れない。小さく悪態を付くと、あきらはそのまま知らない街を練り歩き始めた。この町には間違いなく魔法少女がいる。常に肌に小さな波が伝わってくるのだ。問題なのはその彼女たちと接触するべきなのか、否か。
とはいっても、あまり悩むのは性分ではない。そして何より、考える事は酷く疲れるものだった。

空が赤みを帯び始める。

制服を身に纏った妙齢の少女が、楽しそうに笑いながら脇をすり抜ける。
母親と手を繋いだ幼子がすれ違う。
この町は、普通だ。きっと、この世界でも数少ないかろうじて平凡な地域だ。

疲れた訳でもないが、歩くのに飽きて箸の欄干にもたれかかった。
本当に何もないではないか。何だかキュゥべえに騙されたような気がしてきた。

『心外だなあ、来る事を選んだのは君じゃないか』

―――感じがしただけらしい。

『どこにいる』
『ちょっとは探そうとしてくれよ。
口で説明するよりか君が感じた方が早いはずだ』
『分かったよ、魔法少女もいるの?』
『うん、待ってるよ』

適当な相槌に返事は返ってこない。あきらも会話を中断して集中力を高めた。全身が感じるがままに身体の向きを変えて、目を開ける。先ほどまでは何の変哲もない風景の一部だった廃ビルがやけに誇張されて映った。


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