流転の謳歌。

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近づいただけで全身の毛が総毛立つ。このビルはコンクリートの皮を被った魔女の結界のようだ。その証拠に、その入り口には首筋に口付けを施された女性が横たわっている。気を失っているだけのようだが、それだけで十分だ。
キュゥべえに呼びかけようと試みるが返事はない。どうやら本当に自力で突破するしかないようだ。
ポケットからソウルジェムを取り出し力を込める。私服からはかなり遠のいた服装に身を固めると、あきらは一歩中に踏み入ろうとした。

「待ちなさい」

凛とした声がそれを阻んだ。何事かと思い振り返ると、そこには紫色の衣服に身を包んだ魔法少女が佇んでいた。

「え…中には……あ、ああ、うん」

そういう事か。勿論自分が視線を投げかける少女からもかなり強力な力を感じるが、それに勝るとも劣らない魔力をまた、背中にも感じる。確かに、たった一地域にここまで強力な魔力が集まるのも異常事態かもしれない。一人納得するあきらの怪しげな呟きは無視し、その少女はかなり深刻な表情で問う。

「っ……あなた、誰なの?」
「夏目あきら。キュゥべえに誘われて来た」
「そんな……」
「まあ、そんな顔するなよ。確かに同じ敵を持つ者同士つき合いは難しいかもしれないが、私は違う」
「くっ…あなたは……」
「悪いね、待たせているんだ。行くよ」

少女は何か言いたそうだったが言葉が見つからないらしく、複雑な表情を浮かべたままで追っても来なかった。別段不思議とも思わない。強いて気になる点を挙げるならば、いくら初対面の魔法少女とはいえ緊張しすぎではないだろうかという事ぐらいだ。

いつものように右手を突き出してそこに鎌を形成させる。が、面倒くさくなり途中で止めて一気に飛散させた。
一本一本が細い刃となり、容赦なく使い魔たちに突き刺さっていく。
やはりその数は結界の内部のくせに少なく、かなりやり手の魔法少女が存在する事を意味していた。
出現させた刃物を適当に振り回しながら真っ直ぐに突っ走ってゆく。空気の澱んだ匂いが鼻を掠めて、突如視界が開けた。
部屋の真ん中に位置するのは薔薇に囲まれ、それに誘われ飛び回る蝶に寄生された四つ足の魔女。
作り物の匂いにくらりと目眩がした。

「マミさん!!」

少女の叫ぶ声が聞こえ、それに続くように発砲音が響いた。あきらもまた、その宴に参加するため舞台へと舞い降りる。魔女はマスケット銃の弾丸を意外にも素早い動きでかわし続け、まるで当たらないのをあざ笑うかのようにゆらゆら揺れる。そのままあきらなど眼中にないかの様に突進を始めた。

同時だった。2人が驚くのは。

片やその弾痕から現れた黄色い紐状の拘束具が魔女を縛り付けるのに。
片や突如魔女の真後ろから現れた黒い鎖鎌が魔女に突き刺さるのに。

そして視線が交錯する。あきらからはその少女が頷いているようにも見えた。
もう一度、今度は長いリーチの鎌を形成すると地を蹴る。そのまま魔女とすれ違いながら柄の端を持ってぐりんと回す。確かな手応えを感じながら、その少女の隣に着地する。見上げると、彼女はマスケット銃よりも大きめでバズーカ砲に近い形状の武器をしっかり魔女に向けていた。

「ティロ・フィナーレッ!!!」

今夜も、魔法少女は誰かを救う。


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