流転の謳歌。
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「やあ」
「またお前かよ。お呼びじゃないぞ」
ガラス同士が触れあうような音がして、少女の手にある卵形の宝石と、禍々しさを湛えた黒い結晶が反応しあう。その様子をじっと見ながら、白色の小動物――キュゥべえは言った。
「いやあ、いつ見ても虚しい作業だね」
「黙れ、皮肉を言うだけなら帰ってくれよ」
返事はない。が、代わりに少女が黒色の結晶を放り投げるとキュゥべえはしっかりそれを自らの口で受け止めた。本当にがめつい奴だと溜め息を吐く。
「まさか、僕がそんな何の利潤も生み出さないような非生産的な事をするとでも思ったのかい?心外だなあ」
「…そうでした」
口をもごもごしながら言っているその面をひっぱたいてやりたい。
少女は諦めたように目を細めてから、自身の宝石を見つめた。黒曜石のように美しく光るその宝石には、やはり呆れた顔の自分が写っている。絶望すら何もない、どこか達観したような。
「僕は君にとって有益と思われる情報を持ってきたんだ」
「情報?」
「異常な早さで魔法少女の素質を持つ人物が現れている…ある種の異常地帯の存在さ」
「それは私に頼んでんの?」
「別に。ただ、どうせ君は行くだろうと思ってね。場所を教えてあげようか?」
「…何でそうやって決めつけんのさ」
「だって、僕は君の望みを知っているから!」
「…そうでした」
ゆっくりと腰を上げる。少女の身体は肌が見える部分以外はすべて黒い衣で覆われていた。黒い髪、黒い目。
黒いソウルジェム。
それはまるで、魔女のような。
「そんな顔をするなよ、夏目あきら!!」
「……」
「魔法少女がいるところに、君は行きたいんだろ?」
「……」
「だって君は、魔法少女の希望じゃないか!!」
「……うるさいよ」
少女の名前は夏目あきら。
いわずともがな、魔法少女である。