memory#1. |
「や・・・、止めろ・・・っ」 暗闇よりもどす黒い塊が、執拗に追い掛けて来る。 どんなに、走っても。 どんなに、逃げても。 それは、執拗に追い掛けて、追い詰める。 「あ・・・っ」 突然、足が絡まった様に感じ、直ぐに倒れてしまう。いや、振り返って足下を見れば、何処かで見た黄金色の蔦が、まるで意思がある様に足にねっとりと絡み付いていた。 倒れた事により、縮まって行くどす黒い塊との距離───。 そして、それは言葉ではない音を響かせながら迫って来る。 ″オ前ハ・・・、・・・ダ・・・″ 「うぁ・・・っ!」 飲み込まれる、と。 同化されてしまう、とそう思って眼をギュッと瞑る。 気持ち悪い感覚───躰の中と言う中に、蟲が入ってくる様な、毛穴と言う毛穴が開く感覚に躰も心も侵食されていく様で。 止めろ!と懸命に抵抗しながら、今はここには居ないたった1人のかけがえのない大切な人の名前を、声ではない心の声で必死に何度も繰り返した。 ───総士、総士・・・っ! 嫌だ!と藻掻きながら彼の人の名前をすがる様に念じて、手を伸ばして───そこで全てが消えてしまう。 ″・・・これは、お前達には渡さない″ 力強い緩ぎない凛とした声が、その場に響きわたる。 不意にこの場に割って入った介入者。 既に、助けを求めた存在は意識を失っている。それをちらりと見捉え、執拗に追い詰め今まさに飲み込もうといるその間───とは言っても浮いている為、上にいるのだが───に介入者は立ち塞ぐ。 ″オ前コソ、ソコヲ退ケ・・・。邪魔ハ許サナイ・・・″ 塊が闇色に鈍くザワザワと光る。 同時に、黄金色の蔦が彼の者に覆い被さり、引き摺りこもうとしているのを見咎め、眉を顰めた。 ″言ったはずだ。これは───一騎は、お前等に・・・お前達には渡さない、と″ ───これは、僕の光───魂が理解している。 そう、魂の半身・・・片割れなのだ、と。 何時も、一騎に光を貰っていた。 何時も、一騎が光の方へと導いて、時には引っ張り上げてくれていた。 あの時だって───。 ″皆城総士───オ前ニハ、コノ存在ハ渡サナイ・・・。コレハ、我々ノ・・・わたしノ物ダ″ 総士は、直ぐ様否定する。 否、と。 ″違う。お前は不意に与えられた祝福に戸惑い、その最初の祝福を与えた───お前達フェストゥムに傷を与えた人間、真壁紅音と同じ感性を持つ一騎を取り込めば、また元の無へと・・・一つの塊、全に還れると勝手に思っているだけだ″ もう一度、黄金色の蔦に侵食されそうになり、意識を失ってしまった大切な存在である一騎を、何時もの冷静な瞳で見つめ、次いで眼の前の黒い塊に睨む様に静かな強さを秘めた瞳で見やる。 ″・・・何度も一騎に救われた。 今度は、僕が一騎を護る番だ。 何度お前達に奪われ様と、僕は必ず一騎を奪い返す!″ 総士の声に呼応するかの様に、薄碧色を弾かせた白い機体が総士と一騎の後ろに現れる。元から大きな機体だったが、今は更に大きく存在を感じる。 ″ナ・・・ッ!″ どす黒い塊がたじろぐ。 ″・・・お前の主が今、目の前にいる存在に脅かされている。お前の主を護る為の力を───僕にお前の力を貸して欲しい・・・″ ───僕は、この傷を後悔はしないが、この傷により唯一の大切な存在である一騎を護れないが・・・。 『 』 総士は、聞こえてきた声音に目線だけを動かし、眼を伏せた。 一旦伏せた瞳には、優しい色が滲む。 ″・・・済まない、ありがとう″ 今、総士が揺らいでしまったら、大切な存在である一騎がこの塊に取り込まれてしまう。 『 』 沈黙した彼に総士は微苦笑すると、軽く笑って礼をする。 ───一騎、済まないがお前からも力を貸してもらう事になる・・・済まない、一騎・・・。 もう一つのの力によって、退けられた闇色の塊。 黄金色の蔦に覆われていた一騎の躰が、漸く解放される。 ″・・・一騎″ 総士は、とても大事そうに一騎の躰を起き上がらせ、やわやわと抱き締める。 ″必ず・・・、必ず還るから良い・・・。一騎、お前が居る場所へ───お前の隣に。必ず還る・・・″ 総士の言葉は聞こえていないはずなのに、閉じられた一騎の目尻からは透明な雫が溢れ、頬を伝い落ちて消えた。 |