総一SS

□鏡の中の一騎
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レポート01.






 必要としてくれるから───、ここにいたい。

 ここが在るべき場所だって、そう思える。




 ───呼ぶ声が、聞こえる。












 最近、うつらうつらと夢を見る。










 ちょっと嬉しくて、それが顔に出ていたらしく、いきなりパコンッと手にしていたクリップボードで頭を叩かれた。

 「痛・・・っ」
 「・・・こら、僕の説明を聞いていたか?」

 声音だけでなく、眼差しも冷たい。何時もの仕事モードもあって、こう言う時はかなり厳しいのをよく知っている。
 こんな時に嘘を言えば、聡い幼馴染みは直ぐに説教モードに突入してしまう。
 だから、真面目に答えた。

 「ゴメン、総士。俺、途中からちゃんと聞いていなかった・・・」
 「・・・・・・ふぅ、その様だな」

 冷たく一瞥すると、溜め息と共に瞳が伏せられる。

 「・・・これ以上説明しても、今日は無理だろう」
 「ゴ、ゴメンッ! 今度はちゃんと聞いてるから、もう一度、説明して欲しい・・・」

 呆れられたと思い、必死で謝罪する。

 「・・・・・・。では、どの辺りからか、言ってみろ」
 「う・・・」

 どの辺り、と指摘されれば観念するしかない。

 「そ、そのぅ・・・、やっぱり初めから・・・お願いします・・・」

 言えば、大袈裟と言える程の大きな溜め息を落とされた。

 「・・・一騎、今日はもう帰れ」
 「で、でも・・・っ」
 「一騎」

 冷静な物言いに、一騎の背筋が冷たくなっていく。
 見捨てられる、と表情に出ていたのかもしれない。

 「・・・別に見捨てたりはしない。只、こう言った上の空の状態が続いた場合、いくらお前が島で一番シナジェティック・コードが高くとも、パイロットから容赦なく降ろさせてもらう。ファフナーに乗ると言う事は、島の皆の命を預けていると言っても過言ではないからだ」

 況してや遊び等ではなく、文字通りに命のやり取りをしている戦場の最前線で戦うのだから。
 その重みは、誰よりも重い。
 常日頃、それこそ幼少───もう、物心つく前からかもしれないが、何事においても厳しかった島の代表でもある実父、皆城公蔵からもそう言い聞かされて、悪く言えば、″総士″と言う″個″を抑え込んでしまう様に厳しい教育を受けてきたのだろう、総士の言葉はとても重く、辛い現実を一騎に突き付けた。総士の言葉だからこそ、一騎には余計に重く感じられた。

 「総士・・・。解った、今日は悪かったよ・・・。次はこんな事がない様に、真面目にきちんと聞く」

 シュン・・・と項垂れた一騎は、まさに親に叱られている小さな子供───頭に動物の耳が付いていれば、きっと耳まで悲しそうに垂れて反省しているのが見えそうな程で。傷付いた表情や、今にも泣きそうな潤んだ瞳に、一騎本人の為を思って叱っている総士の方が、逆に罪悪感に囚われてしまいそうな錯覚に陥る。

 「・・・・・・」

 一騎のあまりの気落ちっぷりに、総士も流石にどうしたものかと頭を捻らせ、取り敢えず、一騎が原因であるだろう話をしてくれるのなら聞いてみようと至った。

 「・・・どうしたんだ? 今日は、お前らしくないな」

 冷静に。
 落ち着いて問い掛ける。
 一騎は、他人に対して理性では解らずとも察してしまえるからだ。

 「・・・・・・」
 「・・・? 僕には言い難い事か?」
 「あ・・・、いや、そ・・・じゃあない、けどぉ・・・」

 珍しく、総士を見て眼が合うと直ぐに外された。それはそれで傷付くものがあるが、総士は今は考えない、追求しないでおく。

 「じゃあ、何なんだ?」

 言外に、怒ってはいない、と声音に努めてはいるが───。

 「・・・呆れ、ない?」
 「? 内容にもよるだろう。兎に角、話をしてみろ」

 一騎はもう一度視線を総士に合わせ、そわそわと漂わせた後に俯きながらぽつりぽつりと話し始めた。

 「夢を・・・、見たんだ」
 「夢?」
 「ああ、お前の・・・夢だ」
 「・・・僕の?」

 益々、総士の眉間に皺が寄り始め、視線も鋭くなっていく。総士本人には自覚がないが、一騎からして見れば、ちょっと怖い感じだ。

 「どう言った内容か・・・は忘れちゃったんだけど、総士と・・・昔みたいに話をする夢なんだ・・・」

 そう言った一騎は常になく照れているが、はにかんだ微笑みはとても嬉しそうだ。
 何故か一騎の幸せそうな表情に、総士は苛々してしまったが、何でそう思ったかは総士も解らず、取り敢えず、今は一騎の上の空の原因を聞き出すべく、意識を一騎に集中させる。

 「・・・それだけなのか?」
 「うん・・・。内容は・・・覚えていないんだけど、お前と昔みたいに話が出来て、スッゴく嬉しかったんだ。起きてみたらその感覚だけ残ってて、嬉しかったなって・・・そう思ったんだ」
 「・・・・・・。察するに、僕とそう言った会話が出来れば良いと思っていた、と言うところか・・・」
 「・・・うん、まぁ・・・そんなとこ、かな・・・」

 願望から見た夢が嬉しかった。
 それだけの事かと思い、総士は短く嘆息する。
 先程から無性に胸の辺りがムカムカしているが、よく解らないのでそれも放置しておく。

 「・・・今はこんな状況だからな、お前の願いを叶えるのは難しい」
 「うん・・・、それはよく解ってるよ・・・。だから、そんな夢が見れて・・・嬉しかったんだ」
 「・・・・・・。解った。今日はもう帰って良い。司令には僕から報告しておくから、ゆっくり休むんだ」

 今日のミーティングは、明日にしよう。
 即座に打ち切ると、労る様に一騎の肩をぽんぽんと叩き、総士は一騎を帰した。
 肩を叩いた時、一騎は嬉しそうでいて切ない様な、そんな表情を浮かべていて、少し気にはなったが総士は特に何も言わないで一騎を眼で見送るだけに留めてしまう。

 「・・・夢、か・・・」




 一騎の変化は、この日だけでは済まなかった。





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