第17話 生存〜しかけ〜より |
部屋にやって来た、珍しい人を眼にして自然と頬が緩んだのは、つい先程の事。 入ってくるなり、「行くぞ」と言われ、一騎は何処へ?と考えている最中に、先程の人物に腕を捕まれて立たされ、立たされたと思うと手を取られて何処かも解らない場所に向かって歩き出していた。 「そぉ、し・・・っ?」 何処に行くの?と疑問に思いつつ、自分の前を歩く総士を見ても、ふわふわと跳ねる総士の束ねた後ろ髪しか見えなくて。 一騎は、総士に引き摺られる様に後を付いて行くも、背の差もあって、早足の総士に付いて行くのは少し小柄な一騎には小走りするしか追い付けなかった。 「総士・・・っ!」 「・・・・・・っ」 「わぁ・・・、ぷっ」 一騎の何度目かの呼び声で、総士はいきなり立ち止まった。 それにより、一騎は目の前の総士の背中に勢い良くぶつかってしまう。 「痛・・・っ、そ、し・・・っ?」 一騎は、強かにぶつけた鼻を押さえながら、部屋に入ってから今まで黙秘を貫き通していた総士を見上げる。 すると、一騎の弾んだ息からも自分の過失に気付いたのか、直ぐに謝られた。 「・・・済まない」 「・・・・・・」 総士の背中が、ぴんとした背筋を張った背が、とても悲しそうで───。 一騎はどうしたものかと思案したが、先程からの最もな疑問を投げ掛けてみた。 「総士・・・、何処に向かっている、の・・・?」 ゆっくり問えば、総士がそろそろと一騎を振り返り、小さく呟きを落とす。 「・・・の部屋、だ」 「???」 上手く聞き取れず、一騎が小首を傾げて見せれば───。 「僕の部屋、だ・・・っ」 「え・・・っ?」 言った総士の頬がうっすら紅を差しているのが見え、一騎も釣られて頬が熱くなっていくのが解った。 「えっと・・・」 同性の友達ならいざ知らず、幼馴染みとは言え、異性である総士の部屋に2人と言うのは───。 総士と話がしたい、とは先程までいた新国連軍でフェストゥムと戦っていたあの時から願った事だけれども。 急に総士を異性の1人として意識し始めてしまい、一騎もどうしたら良いのか頭が真っ白になる。けれども、一騎の中では総士はとても大切な存在なのは変わりがない。 「・・・お前と・・・、話がしたいと思ったんだ」 「私、と・・・?」 総士も、自分と同じ気持ちだったんだと思うと、胸が暖かくなっていく。 「お前の今まで居た部屋だと、監視カメラや盗聴される可能性が高い。だから、僕の部屋の方がお互いに気兼ねなく話が出来るだろうと思って・・・」 一騎の手を握っていた手に、力が籠る。 総士も怖かったんだ、と握られた手から感じられた。 お互いが解らないからこそ、人として会話をする事こそが必要なのだと気付かせてくれたあの子の為にも、一騎はゆっくりとでも総士と歩み寄ろうと思った。 「私も・・・」 「・・・・・・?」 一騎の手を握り締めている総士の手は、昔と違って骨張っていて一騎よりも大きい。その手を、一騎もゆっくりと握り締めて意思表示をする。 「私も・・・、総士と話がしたいって・・・、そう思ってたんだ」 「・・・一騎」 ふわ・・・と微笑った一騎に、今まで2人の間にあったぎこちなさは消えていた。 「話をしよう・・・? 総士。私達には、話をする時間が───お互いの気持ちを押し付け合うんじゃなくて、お互いをよく知る事が一番大事で、お互いに歩み寄る初めの一歩だから」 「・・・・・・あぁ」 それから向かった総士の部屋は、先程、一騎が父である史彦から申し渡されて入っていた部屋よりも、少し歩いた先に存在していた。 |