夢
□きみになりたい深夜3:11
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馬が、いなないた。
遠くから蹄が大地を打ち付ける音がする。ゆっくりと、音を立てないように体を起こすと今まで寝ていた草の臭いが鼻をついた。
はあ。
はあ。
どうしても漏れてしまう息が熱い。飲み込める唾も枯れそうだというのにこくりこくりと喉が動いた。生きているのがこんなにも辛いのは初めてで何の意味もなく涙が零れる。
死なせてくれと呟いた唇は切れていた。
何人かが私を死体だと疑わずに踏み越えた。すんでの所を馬が駆けた。泥と砂が何度も胃を犯した。
私は、
凛と立つあの男を心から愛していた。
誰より。
誰よりも。
所詮その恋慕は実ることもなく消えていこうとしているがそれでも、こうして今は微かに呼吸している。
願わくば最後に私を越えていくあの馬上にあるのがあなたであるように。
「さあ……死の、うか」
死にたいと漏らした自分を恥じて、いく。倒れた体が軽い。空から引っ張られているようだ。
(愛していたなんて甘い言い方だ。私はあなたをこてんぱんにやっつけてしまいたかった。憧れていたし、そしてどこか馴れ馴れしくもただの男の一人として見ていた。あなたは人だ。君子ではない)
名さえ忘れ去られるだろう。
彼は、私を果たしていつまで覚えているか。
忘れてほしいような、忘れられたくないような不思議な気持ちだ。
(早く来てくれないか)
あなたがいく、あなたと私が最後に交差するその時。
好きだと
言ってやった。
聞いてもくれない、つれない人は明日を生きる。私を忘れて、私の死を仕方ないと諦めて。
結局一番辛いのは生きる人だから私はそれを責めない。死せる人は幸福なのだ。納得して目を閉じた人は。
(ああ、私はなんてことを)
よかれと思ってうけた刃。一番辛いのはあなただ。部下を自らの代わりに切り捨てたあなただ。
(かわってさしあげたい)
あなたに
なりたい
(私はだめな部下でした)