□まるで恋のような
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「パウリー」

呼び止められた男は菓子を頬張る野郎共の面子に目を見張った。ルッチが混ざっている。彼を呼んだのはルッチではなくカクだったが。

「大量にあるから恵んでやろう。わしは優しいからのう」

「恵むなら金にしてくれ」

手渡されたクッキーには見覚えがある。確かカリファが定期的に注文する菓子で、一流のコックのものだとかいう。勿論味は良いし、一流だと聞かされて食べれば色眼鏡もかかってなお美味い――気がした。しかしあの、あのルッチまでが黙々と口に運んでいる。鳩にまでクッキーを崩して与えているということは相当気に入っているということだった。

「一流のコックならよぅ、きっと儲かるんだろうな。店をバーンとおっきく構えてよ」

「一流のコック……?」

まだ山のように詰まれているクッキーをまた一枚摘んでカクは呟いた。

「カリファのダチなんだろ? すっげー金持ちで、そういう男はだいたい面も良くて……クソッ! 羨ましいぜ」

カクが刹那を置いてけたたましく笑った。そして食べていたクッキーをおかしなところに入れて激しくむせこんだ。それでも笑いつづける彼を頭上にクエスチョンを浮かべてパウリーは眺める。ルッチは四角いクッキーばかりを選んで食べていたので覗き込んだが、観察する前に口に消えた。

「勝手にっ……ゲホッ そうぞ……嫉妬……みっともな……いっ」

「うるせェ!」

「確かに、"彼"は最高よ」

カツ、とヒールの音を聞いてパウリーが振り返ると珍しくパンツルックのカリファがいた。

「……ハレンチ女!」

「今日は貴方に指摘されるような恰好はしていませんが」

「存在だ! 存在がだ!」

「むしろ好みなんじゃろうな。鼻の下がのびのびじゃ」

回復したカクが言うと返す言葉もない彼は片手で鷲掴んだクッキーをぼりぼりとかみ砕いた。腹一杯になったらしいハットリがその頭に着地して昼寝モードに入る。

「最高なんだけど、でも、金はないわ」

「そうじゃな。見習一流コックだしのう」

「見習で一流っておかしいだろ」

「パウリーは見習職長だっポー。クルックー」

「黙れ馬鹿ルッチハットリは寝てんだぞ今のは明らかにお前だろうがっ」

「でも、一流なの。可哀相だけど貴方には紹介出来ない。あの子に会えないのは――可哀相だけど」

「幸せは対価がないと現れないものじゃ。パウリーが会うためにはとんでもない犠牲が必要じゃな」

四角いクッキーには"TO THE HAPPINNES"の文字が刻まれている。底知れない犠牲を対価に腕を振るうコックは闇の向こうで手招いていた。



盲目に幸せに舌鼓を打つ仲間達を背にパウリーは立ち上がる。そこにいる誰もが闇に恋していた。


(出来ればそのコックに一生会わないでいられればいいと思った)



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