□うすどろ
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……何故こんなことをするのか。彼女は美しいのだから他にいくらでも男は作れるだろうに。

一息にどなるように言ってから彼は女に背を向けた。戯れるような口づけも、淫靡なそれも何度も喰らった。その度に拒み、時には怒ってきたが彼女は全く堪えない。ホウ統が黙っているとその沈黙を誤解して衣服をはだけようとすることもあった。

じゃれあうように、一方的な愛情表現を押し付けてくるのは男にとってみれば彼女の傲慢さそのものであり、価値に揺れる自身への当て付けにも思えた。柔らかな胸をさらけ出した肢体を跳ね退けて出ていこうとすると隠された更に奥、全てをホウ統の前に投げうった女が彼の名を呼んだ。

「士元以外の男なんてこの世にはいない」


ゆらゆら


「世は広いんだよ」

「私が世界よ」

自分が全てだと言い切る小さな世界はホウ統が顔をしかめるのを幸福そうに眺めた。そして彼はこの世で唯一の男になるのだった。


(価値観などいつも揺れているものだ)

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