□うすどろ
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「……こわい?」

茶目っ気を含ませて小首を傾げたその人は私の答えも待たずに体を引き寄せた。自分ではない、かぎなれないにおいが彼からして居心地が悪くて身を固くするともう一度聞かれる。

「こわいの?」

まるで小さい子供を労るように優しい声音だったので私はそれに甘えた。頷いて目を閉じる。

「可哀相に。それならほら、もっとくっついて。守ってあげるよ」

彼はそれはそれは嬉しそうに言った。私は唇に重なった体温に相変わらず身を竦めながら嵐が去るのを待つ。髪を撫でていた指が首をなぞる。死んでしまいそうな心持ちで上がりそうになる悲鳴を殺した。

「意外だねえ。雷と大雨にこんなになるなんて」

違うんだ、違う。私が怖いのはそんなものじゃない。瞳を鎖して拒むのも限界に来ていた。守るとうそぶいたその腕は既にただの縄になっている。

「風が出てきました。そろそろお帰りにならないと」

「泊めて。もう帰れないよ」

――目を開けてはならない。視線まで捕らえられたら全てをがんじがらめにされてしまう。わかっていたのに。


ひゅうひゅう


怖いのはあなたなのだ。わかりやすく私を自分のものにしようとする素直な怪物のような。心の隙を見つけて付け入ろうとする。

「守ってあげるって」

そう言いながら舌なめずりをしているではないか。私はきっとこの嵐を越せないだろう。

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