□両刃
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「……ねえ、それ、私に申し訳ないとか思わないの?」

真っ赤な夕日を背にして言った女は茶化すように笑っていたが口許が引き攣っていた。対して男は腕組みをして悩ましげに唸っている。本気で考え込む彼に彼女が心から呆れている。そんな光景だった。

「申し訳無いっていうかよ……どうして俺ってこうなんだろうな」

「私に聞かないでよ……」

飲みかけていた茶を干した女は眉間にわかりやすくしわを刻んで話を断ち切った。彼はと言うと相変わらず「うーん」と唸ってみたり「はあ」と息をこぼしてみたりしている。男がこうなった時にはもう答えは定まっているのだと彼女は知っている。二人が別れた日もこうだったのだ。

「好きじゃないなら一緒に居るのも相手に失礼なんじゃない」

「おう」

「別れるならちゃんと話し合って彼女の気持ちを汲んであげた方が良いよ」

「お、おう」

「あと、恋愛相談を昔の女にすんじゃないわよ」

笑えないからね、と呟くと男は顔を上げた。組まれていた腕は解けている。強い意志を滲ませる青が彼女を刺して、あれこれと千鳥足で思考を行ったり来たりしていた彼はもういなかった。

「なあ、俺はよ。あんたと別れる時、ちゃんと気持ちを汲んでやれてたか」

遠かった二人が限りなく近づく。壁は不意に破られてそこには見たまま距離しかなくなってしまった。

「……ええ? なんで、急に」

彼を睨みつけていた目が困惑に歪む。男は手を延ばして触れようとしたが出来なかった。見たままの距離しかなくてもやはりまだ触れるには遠い。寸止めされたそれにいたたまれなくなった女が席を立つと「好きだ」と彼は告げた。まるでつなぎ止めるためだけにされたような告白に男の方が辛そうで彼女は眉をひそめる。

「どうして俺ってこうなんだろうな」

夕日は一日に焼き尽くされて落ちていった。暗がりにのまれかけた辺りと二人はかろうじて一緒に存在していた。良い女であろうと平生を装い続けていた彼女は彼を振り切れずに掌を握り込む。

「全然、だめだった。私の気持ちなんて考えてくれてなかった」

私の気持ちを一番わかっていなかったのは本当は私だ。女は面倒な自分を認められずに彼を詰った。男は知らないような顔をしてそんな本心をすくい取ろうとする。ぽろりと彼女が涙をこぼすと、くしゃりと笑って拭ってしまった。さっきまで躊躇っていた距離が零になった瞬間だった。

「好きじゃないのに一緒にいるのが失礼なら、好きなのにすんなり別れちまうのはどうなんだ」

過去の私達を切り捨てる、その言葉。



両刃


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