「やっ……嫌だ! 離せ!」
「無理な相談だ」




ガムテープというのは、日用品の中で一番拘束道具として役に立つと思う。結ぶ必要も無い、ただ巻き付けるだけでその役目を果たせるし、何より強力な粘着力のおかげで拘束が緩むこともない。値段も手頃、持ち運びも楽だ。下手にロープなどの紐類を使うよりもよっぽど合理的と言える。難点があるとすれば、臭いが独特といったところか。しかしこれも慣れてしまえば、それほど気になることでも無い。





絵に書いたように閑散として薄暗い路地裏。そこに居るのはオレと、一人の子供。二人だけ。二人きり。


以前完膚無きまでにボコボコにした相手。完膚無きまでにボコボコにされた相手。名前なんか知らない(忘れただけかもしれない)、銀髪の子供。天の助(元)隊長も共に居る、ボーボボ一行の一人。オレを負かせ、アトラクションの一つを木っ端微塵に破壊した、銀髪の子供。




その子供を見つけたのはただの偶然だった。あの時与えられた屈辱を違う屈辱で返してやろうと思い付いたのもこの時だ。自ら進んでボーボボ一行を追い掛けていなかったオレにとってもう二度と会うことは無いと踏んでいたから、この再会は勿怪の幸いと称するべきか。ただの偶然と片付けるには惜しいほどに、これはとても大きなチャンスだったのだ。





一人になったところを見計らい、路地裏に引き込んだ。子供はオレのことを覚えていたのか、すぐさまに逃げようと抵抗し、オレの腕から逃れようと足掻くから、丁度良くそこに転がっていたガムテープで子供の腕を後ろ手に拘束した。自由を制限してしまえば、力でねじ伏せるなんて簡単なこと。オレとこの子供の実力差は明白だ。逃げられる可能性なんて、最早一パーセントにも満たない。





逃げられぬよう、壁に手をついて逃げ道を塞ぐ。身長差故、必然的に子供を見下ろす形になった。子供は、敵意と混乱が入り混じった瞳がオレを射抜く。諦めの悪い、良い獲物だ。





「これから何をされるのか、分かるか?」
「っ知るか! 早く外せよ!」
「そうか、分からないか」




自然と口角がつり上がる。楽しんでいる。オレは、この状況が、とても楽しい。自覚出来るほどに、それは大きく肥大化していった。





「ならば、分からせてやる」






モノクロに統一された服を力任せに引き裂いた。拍子抜けする程にあっさりと、それはただの布切れへと変貌した。破れた服の合間から日焼けの無い白く華奢な胴体が薄暗い路地にぼんやりと浮かぶ。まるで女のようなきめ細かい肌。本当にこの子供は自分と同じ性なのか、少々疑った。しかし何も無い平らな胸を凝視すれば、性別など疑うまでも無かったのだが。



そうされたことによりこれから行われる行為を察したのか、サッと頬を赤く染め、同時に表情が引きつった。その大きな紅い瞳に浮かぶのは恐怖の色。先程までの敵意も、戦った時に見た好戦さも、まるで欠片も無かった。




「なっ、あ…」
「分かったか? オレは今から、お前を犯す」
「い…いや、嫌だ! ふざけんな、嫌、やだ…!」
「五月蝿い、喚くな」




嫌だ嫌だと喚く五月蝿い口をガムテープで塞いでやった。悲痛な叫びは途切れ、篭もった呻きだけが耳に届く。その肢体を壁に強く押し付け、抵抗を完全に殺してやった。そのまま吟味するように、首筋に舌を這わせる。首輪に沿って、ゆっくりと。




その刺激にびくりと体を震わせ、自由の利かない身を捩って逃れようともがいていたが、所詮は無駄な抵抗。これからの行為の妨げになど、なりはしない。





「力の暴力も効果的だろうが、オレはお前の心身共々、ボロボロにしてやりたい」




言いながら首筋に強く歯を立てる。篭もった呻きが漏れる。溢れてきた血を舐めとりながら、しかし噛み付く行為を幾度か繰り返した。歯形が幾つも刻まれ、まるでそれが所有印のようで滑稽だった。






ただ痛めつけるだけでは、ただの腹いせで終わってしまう。しかしオレの気はそれだけでは収まらない。諦めていた復讐のチャンスに、それは破壊欲となってオレの心を占めていた。どうしようもないぐらい、この子供を壊したい。


ただの暴力など、体は傷付けられても心にはあまりダメージは無いだろう。ましてこの子供だって戦士だ。通常の暴力に屈するほどに心気が弱いとは思えない。それでは意味が無い。完全な破壊とは、なり得ない。





だから――







「快楽の暴力で、お前をボロボロにしてやる」





男が男に犯される。それは大きな恥辱で屈辱。恋仲であるならそうではないだろうが、オレとこの子供はそんな仲じゃない。オレが行うのはただの性暴力。言わばレイプだ。この子供を心身共々痛めつけるのに、これほど最適な方法は無い。



男を抱いたことなど勿論無いが、知識は持っている。しかし幾つかの手順は省かせてもらう。愛撫などという生温い過程は排除だ。優しくしてやる筋合いなんて無い。これは、ただこの子供を痛めつけてやるだけの行為。そこに同情など不必要だ。









傷付けて。



痛め付けて。



泣かせて。



鳴かせて。








――堕としてやる。








「意識は落としてくれるなよ? それじゃあ、楽しめないからな」





それは、悪魔の囁き。オレが本気であることを明白にする、最適な言葉。妄言などでは無いと知らしめる、絶好の脅し文句で死刑宣告。




いつの間にか、子供は涙を流していた。レイプされることがそこまで怖いのか、ただ羞恥から泣いているのか、どちらか分からなかったがどちらでも良かった。泣いているということは、この子供の心に傷を入れてやれている証拠に他ならないからだ。






あぁ――満ち溢れていく征服欲。破壊欲。優越感。高揚感。この子供を好き勝手にいたぶれる事実に、まさしくオレは興奮して、高揚して、悦楽を感じていた。




「怖いか? オレのことが、泣く程に怖いのか?」




前髪を掴み、目線を交叉させ、至近距離で囁く。恐怖に歪んだ眉と目元がピクピクと引きつる。何か言おうとしているのかモゴモゴと口元が動くが、ガムテープに阻まれただのノイズとなって霧散した。それが否定なのか無意味な命乞いなのか罵声なのか知らないが、聞こえないならどうにもならない。声を奪ったのはオレ自身であるのだから、そう言ってやるのは少々可哀想か?(しかし元より同情心は無い)





「安心しろ、怖がる必要は無い」




せめてもの慈悲で、出来るだけ優しい声色でそう言った。そして耳元に顔を寄せ、吐息を吐きかけるように静かに囁き、追い討ちを掛けた。








「お前がボロボロに壊れれば、すぐに解放してやる」






――さぁ、始めようか、狂ったダンスタイムを。


















――――
破壊という美学
Alice Nine./ZERO

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ