悪夢とは、終わらないから悪夢と言うんだと思う。



長い時間こんな場所で、こんな仕打ちを受けていれば、思考はひどく歪んだ方向に向かっていく。悪夢だと思い込み、早く覚めてくれと願うこの行為は一種の現実逃避だけれど、この逃避すらとても無意味なものなのだ。





だって、これは悪夢なんかじゃない。それを知らしめるために、俺はすぐに現実に引き戻されるのだ――








「っああ…!」
「考え事とか、生意気じゃん」
「ひっ、や…やぁ、やあぁ…!!」



トリップしていた思考を引き戻したのは、自分の体を這うギガの指だった。抗いたくても、両腕を戒める鎖がそれを許さない。ただガシャガシャと耳障りな音を立てるだけ。ヘッポコ丸に自由など、与えてはくれない。




サイバー都市に拉致されて数日。ギガの気紛れかはたまた別の理由か、ヘッポコ丸はオブジェには変えられず、こうして拘束されて性行為を強要されている。同意も何も無い、ただの性暴力。理不尽に繰り返されるこの行為は、日に日にヘッポコ丸の心を砕いていく。

それに耐え続けて未だ自我を失わないヘッポコ丸の精神力は称賛に値するけれど…ギガにとって、それはただ苛虐心を煽るだけ。





――遊戯を楽しむための、スパイス。





「やだやだ言ってるわりには、身体は正直じゃねぇの」
「う、ああ…!?」




快楽の兆しを見せ始めていた自身を撫でられ、ヘッポコ丸は思わず嬌声を上げた。ギガの言う通り、身体は正直だ。呼吸は荒れ、全身は熱を持ち、自身はそれに比例して立ち上がる。皮肉、としか言い様が無い。


そのままそれを上下に扱きつつ、片手は乳首を容赦無く攻めるギガ。ここ数日身体に刻み込まれたことにより、どちらに与えられる快楽もヘッポコ丸にとっては脅威であった。




感じるはずが無い。気持ち良いはずがない。頭ではそう言い聞かせていても、身体は与えられる快楽に従順で容易く堕ちていく。





「ひぁ、あ、あああ…! ひ、イヤだ、やだああああ!!」




感じてしまっている自分が信じられなくて、ヘッポコ丸はただ「嫌だ嫌だ」と繰り返す。拘束を解こうと躍起になり、また鎖が耳障りな音を立てる。無意味だと分かりきっているはずなのに、ヘッポコ丸は抵抗することを止めない。それがヘッポコ丸の虚勢であっても、この抵抗を止めた瞬間、ギガの手に堕ちてしまう――少年はそう確信している。だから、抵抗を繰り返す。意味の無い行為と分かっていながら、繰り返す。




ギガは、ヘッポコ丸のその様が面白くて仕方無かった。身体はこんなに淫乱で浅はかなくせに、未だ無駄な抵抗を繰り返す。自分が与える愛撫の全てを甘受してしまっているくせに、脳はその事実を否定する。





この強情な玩具を、とことん堕としてやりたい――ギガは、残虐な笑みを浮かべた。




「ふあぁっ!?」
「イヤイヤ言ってんじゃねぇじゃん。身体は嫌がってないって証拠、見せてやんよ」
「あ…!? ひ、ぃ…いっいや、ヤダ! やめっ……あ、あああっ――!!!」





呆気なかった。



ただ自身を扱く手を早めただけで。


乳首を強く押し潰しただけで。



ヘッポコ丸は呆気なくその精を吐き出してしまったのだから。





「はぁ……はぁ…」




与えられた快楽が強すぎたのか、ヘッポコ丸の足はガクガクと震え、ただ荒い呼吸を繰り返す。その真紅の瞳から零れる涙は、快楽から来る涙なのか、それとも敵であるギガの手によって簡単にイカされてしまったことへの悔し涙なのか…。




そんなヘッポコ丸の涙の真意なぞ露知らず、ギガは手に附着した白濁の液を見てほくそ笑んだ。





「気持ち良かった? ヘッポコ丸。気持ち良かったんだよな? これが、紛れもない証拠じゃん?」




白濁液の附いた指を無理矢理ヘッポコ丸の口内に突っ込み、ギガは愉快そうに笑ってみせた。舌に直に伝わる苦味にヘッポコ丸は顔をしかめてその指を押し返そうと舌を動かすが、思うように動かずなんの意味も無かった。



「無理矢理されてんのにイッちゃうなんて、お前って淫乱…」
「っ…!」




違うと言いたかったが、ギガの指が舌を押さえ付けているために言葉を発することは叶わない。せめてもの抵抗でキッとギガを睨み付けるが、涙に潤んだ目ではなんの効果も無い。未だ反抗的なヘッポコ丸を見て、ギガはニヤリと口角を歪ませ、ゆっくりとヘッポコ丸の口内から指を引き抜いた。



そして、ヘッポコ丸の後ろ――秘部にその指をゆっくりと這わせた。







ここ数日強要され続けた行為により、その指がこの先どんな動きをするかなんて、ヘッポコ丸が想像することは容易だった。




「やっ…」
「いや? んなわけないじゃん、散々俺が可愛がってやってんだから」




ヘッポコ丸の唾液と白濁液でベタベタになったその指を、ギガは容赦なく秘部に突っ込んだ。突然の異物感と痛みに、ヘッポコ丸はまた声を上げた。




「いっ…! い、いたっ…痛いって、ばぁ…!!」
「すぐヨくなるって」





なってたまるか。ヘッポコ丸はそう思ったけれど、ほぐすように秘部を蹂躙するギガの指は、時折内壁を引っ掻いてヘッポコ丸の快楽を誘う。そうされる度にヘッポコ丸の身体はビクビクと震える。しかし必死に声を押し殺し、感じてしまっていることを悟らせぬよう懸命に堪えていた。




「っ……ん、く…」
「諦め悪いねぇお前も。そういうの見るとさぁ…」




――余計、苛めたくなるじゃん。





そう呟いて、ギガは空いていた掌を床に押し付けた。すると、その掌が仄かにひかりだし、そこから何やら大きな固形物が生え始めた。それは徐々に人の形を成し、数秒後、現れたのは――もう一人のギガだった。





ギガの操るオブジェ真拳。その奥義の一つ、『サウザンド・トレース』によって織り成されたオブジェギガ。見た目は本物のギガと大差無い。しかし、その瞳は不自然な赤色に彩られていて、それが薄暗い室内に浮き彫りにされ、妙に不気味だった。



無論、ギガのオブジェ真拳の知識なんて皆無のヘッポコ丸にとって、今自分の目の前に居るもう一人のギガは未知の存在。どういう原理で生み出されたのか、どういう理由で生み出されたのか、ヘッポコ丸が模索したところで分かるはずは無かった。




未だギガの指はヘッポコ丸の秘部を犯し続ける。生み出されたオブジェギガは、動かない。





「今日の俺は気分が良いし、お前に通常じゃ考えらんねぇ快楽を与えてやるじゃん」
「っ……どう、いう…?」
「こういう意味じゃん」




その言葉が合図だったかのように、オブジェギガは突然動き出した。ギガと大差無いその体躯をヘッポコ丸に近付け、本物と遜色無い手でヘッポコ丸に触れた。


左手は乳首に、右手は自身に、そして舌は耳にそれぞれ触れた。触れた瞬間、ヘッポコ丸はビクリと体を強張らせた。与えられた刺激によるものもあったが、それよりもオブジェギガのその体の無機質さに驚いたのだ。


当然だが、オブジェであるが故に、オブジェギガからは人間特有の暖かさは無い。故に体温を感じられない。しかし攻める手や舌はまさしく人間そのものの動きを表現している。



無機質で、人間臭い。



そんなちぐはぐな愛撫を、ヘッポコ丸は受け入れなければならなかった。抗う術を元より持ち合わせていないため、ただ通常では考えられない愛撫の刺激と快楽に、ただ呑まれていく。堕ちていく。




「は、ああ……っ、ひぅ…!」
「どうだ? 身体中の性感帯を同時に攻められんのは。今までじゃあ考えらんねぇ快楽だろ?」
「あっあぁ! だ、だめっ、そんな……あ、うぅ…!」
「はっ。もう声押さえる余裕もねぇか」




ギガの指が弄んでいる秘部がグチュグチュと濡れた音を立てる。オブジェギガが弄んでいる乳首は赤く色付き、自身は限界まで張り詰めている。通常では、ここまでの快楽は得られない。しかし、体を蹂躙する指は二人分だ。二十本の指に体を好き勝手にされ、ヘッポコ丸の脳は与えられる快楽の許容範囲をとっくに越えている。声を押さえる余裕なんて、消え失せてしまうのは当然である。



あまりの快楽にまた足がガクガクと震える。自身は今にも張り裂けそうになり、先走りの蜜を溢してはオブジェギガの手を汚している。ギガが弄ぶ秘部も今やぐちゃぐちゃだ。それを見計らい、ギガはそこから指を引き抜いた。




代わりに宛がわれたギガの熱の楔。その感触にヘッポコ丸はギクリと体を強張らせた。今からこれが自分の身体を貫くのだ。今まで何度もそれを受け入れなければならなかったけれど、挿入される瞬間の苦痛だけは全く慣れることが出来ない。あの痛みと圧迫感がまた自分を襲う。そう考えただけでも後込みしてしまうのは致し方無いだろう。



しかしそんなヘッポコ丸の不安も恐怖も、ギガにはなんの関係も無くて。




「逃げようったって無駄じゃん」
「あっ…う、あああ……!!」




引けていたらしい腰を引き寄せられ、同時にギガのそれが秘部に侵入してきた。慣らされたとはいえ、襲い来る痛みと圧迫感はやはり尋常ではなく、ヘッポコ丸は絶叫した。衝撃と痛みで、新たな涙がボロボロと頬を滑り落ちていく。



ギガはヘッポコ丸の苦悶に構うことなく腰を進め、最奥を目指す。それと同時に、オブジェギガがヘッポコ丸の自身を突然銜え込んだ。暖かさの無い、しかし程好く濡れた舌と粘膜が自身を包む。それにより、痛みに萎えかけていた自身は熱を保つ結果となった。それどころか今にも吐き出してしまいそうになる。




「ひゃあ! や、やらぁ…あっ、も、やあぁ…!」
「だーいじょーぶ、すぐヨくなっちゃうし」
「あうう!?」




背筋を、ビリビリと電流が走ったような感覚が襲った。どうやら、ギガの自身がヘッポコ丸の前立腺まで到達したらしい。ダイレクトに快楽を叩き付けるそこを攻め立てられては、最早抗うのは不可能。ヘッポコ丸の意思に関係無く絶頂へと追い詰められるだろう。しかも、オブジェギガがヘッポコ丸の自身をなぶっているために、それに拍車を掛けていることとなる。





――ギガの策略は、見事に成功していた。通常では考えられない快楽は、ヘッポコ丸を簡単に快感の渦に落としてしまった。






部屋に響くのは、生々しい性の音。結合部から奏でられる水音に、肉と肉がぶつかり合う音に、反響する喘ぎ声などだ。それはさしずめ、ギガの欲を膨張させるためのBGMといったところだろうか。ヘッポコ丸のナカでギガ自身は質量と固さを増していき。





そして――なんの予兆も容赦も無く、ヘッポコ丸のナカに精を吐き出した。





「――――!!!!」




突如叩き込まれた熱に声にならない声――否、喘ぎ声だったかもしれない――を上げ、ヘッポコ丸は盛大にオブジェギガの口内に精を放った。下半身に広がっていく熱とオブジェギガに飲み込まれていく熱。それらは決して交わらない。ギガとヘッポコ丸の思いも、交わらない。




ギガは、激しい攻め立てと絶頂へ昇りつめたことによって意識が混濁し始めていたヘッポコ丸の顎を掴んで荒々しく口付けた。ギガの放ったそれはただの戯れであって、ヘッポコ丸にとってはただの不快要素でしかないもの。しかし振り払いたくとも、ヘッポコ丸の体はもう言うことを聞いてくれない。元々拘束されている立場であるから、抵抗を試みたところで結局は無駄なのだけれど…。




「お前は永久に俺様のモノじゃん。ずっとずっと此処に居て、俺様を楽しませてくれよ?」




言い渡された、『死』よりも辛く重い宣告。ニヤニヤとしたギガの背後で、オブジェギガがガラガラと崩れさっていくのが見えた。ヘッポコ丸はギガの言葉に反論するよりも先に、疲労によりその意識を闇に堕とした。――目が覚めたら、全てが悪夢であってほしいと密かに願って。






ヘッポコ丸の瞳から流れた一筋の雫。それをベロリと舐め上げて、ギガは萎えた自身をズルリと引き抜いた。




























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悪い夢なのと笑って
the GazettE/白き優鬱

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