「首輪、返してもらえないかしら?」




Aブロック副隊長・カツにコテンパンにされて気を失っていたはずのヘッポコ丸は、開口一番にそう言った。しかしいつものヘッポコ丸とはどこか違う。



ビュティは目を疑った。自身の目の前に立っているヘッポコ丸は、見知った少年の姿をしていなかったのだから。




腰まで伸びた銀髪、服の上からでも分かる豊満な胸、くびれ。少年の面影を欠片も残さず、彼は女性の姿に変貌していたのだ。




「…あ、あなた、本当にへっくんなの?」




思わず漏れた疑問。その言葉を容易く拾ったヘッポコ丸は、ビュティに目をやった。




「あら、あなた結構可愛いわね。あたしには劣るけど」
「は?」




まさかのぶっ飛んだナルシ発言。ビュティは己の目が点になったのが嫌でも分かった。



ビュティの様子を見てヘッポコ丸はクスクス笑いながら「冗談よ」と諭す。




「あなたの言うところの『へっくん』が『ヘッポコ丸』を差すのなら、御明察。あたしはヘッポコ丸よ。ちょっと人格は違うけど」
「いやいや! 人格どころか性別も変わってますよ!?」
「あぁそれは…」




と、ヘッポコ丸が説明を施そうとした時だった。その背後から唯ならぬ殺気を感じたのは。



そう――カツである。




「へっくん! 後ろ!」
「…分かってるわよ、お嬢さん」




そう言い終わる頃には、既に技は発動していた。目にも止まらぬ早さで真拳は発動し、巨大な怪物を形作る。それが容赦なくカツに襲いかかったのだ。




「こ、これはっ…!」
「気付くのがちょっと遅かったわね」




膨大なエネルギーによって形成されたその化け物は意思があるかのように、悠々とカツを追い掛ける。必死に逃げ惑うカツだったが、スピードは化け物の方が上だった。




「―――!!」




パクリ、と。

あっさり、と。


カツを飲み込んでしまった。




「…す、すごい」




素直に漏れた感嘆の声。今まで見たことのなかったヘッポコ丸の強大な力に、ボーボボすらも凌ぐのではないかと考えてしまう。



しかし忘れてはいけない。今目の前に居るヘッポコ丸は、ヘッポコ丸であってヘッポコ丸ではないのだ。




「話の途中だったわね、お嬢さん」




自身の長い(長くなった)髪にくるくると指を絡ませながら、ヘッポコ丸は切り出した。




「オナラ真拳っていうのは、本来使い手にも大きな負担を与える真拳なのよ。負担が大きい分、その秘めたる力もまた大きいのよ。でも、それを発揮しようとすると、その使い手の人格は変わってしまうの」
「それが、あなただって言うの?」
「御明察。でも、人格はあたしだけじゃないわ。あと二つ、別の人格があるのよ」
「えぇ!?」




ビュティは思わず驚愕した。だって、現時点でこんなにも人格が別物となっているのに、こんなのがまた二つ…いや、二人か? とにかく、残っているのだと言うのだから驚かない理由は無い。




「首輪は、枷なのよ。無理矢理真の力を発揮してあたし達が表に出ないようにするね。もちろん、必要ならばあたしだって他の人格だって現れるわよ。でも、負担が大きいことに変わりは無いからね。出来れば自分自身でこの力まで辿り着いてほしいわ」
「へっくんが強くなったら、あなたみたいな力が使えるようになるの?」
「御明察よ、お嬢さん」




ヘッポコ丸がパチッとウィンクを一つ飛ばす。言葉と同様、それは肯定の仕草だ。




「――お前を」




そこに乱入してきたのが、カツだった。化け物に飲み込まれたはずの、カツだった。




「――殺す!」




最初にヘッポコ丸を倒した時のように、彼の能力であろう不思議な顔を体中に出現させ、化け物を形成していたエネルギーを吸い込んで脱出してきたのだ。

カツの瞳は殺気に満ちている。非常に危険だ。しかし、ヘッポコ丸は静かに言った。




「…あれで倒されてれば良かったのに」




『オナラ真拳奥義:師走』




背後から襲い掛かろうとするカツに、なんのモーションも無くぶつけられた強大なエネルギー。それはカツを容赦なく飲み込む。だがしかし、カツも粘る。




「くっ…こんなもの、全て吸い込んでやる…!」




能力を最大限に発揮し、たった今ぶつけられたエネルギーを全て吸収しようと躍起になるカツ。しかし、それは無駄な努力となって終わることになる。




「残念ね。あなたは結構良い男だから、あれで見逃してあげたかったんだけどね」




でも、その様子じゃあ素直に倒されてくれないみたいだし。




「少しだけ、あたしの本気を見せてあげるわ」




途端にビュティは本能で悟った。このままじゃ危ないと。咄嗟に身を屈め、自身を守るために近くにあった墓石に身を隠した。





「バイバイ、お兄さん」
「―――!!??」






なんの前触れもなかった。

気付いた頃には、お化け屋敷は木っ端微塵の瓦礫の山へと変貌させられていた。






「お嬢さん、大丈夫だった?」
「は、はい、なんとか…」




差し伸べられた手を握り立ち上がりながら、ビュティは正直どうして自分が五体満足でいられるのか不思議でならなかった。辺りを見回せば瓦礫の山。それに溶け込むように、体中に浮かび上がらせた顔から煙を上げて伸びているカツ。あの膨大なエネルギーを全て吸収することは、どうやら出来なかったようだ。


まぁ、お化け屋敷一つ粉砕しちゃうぐらいなんだし、無理に決まってるよね。と、ビュティは少々カツに同情の念を送った。




「あーあ、ダメねやっぱり。本気出しちゃうといつもこうなんだもの」




伸びているカツの懐から首輪を回収するヘッポコ丸。器用に手で弄びながら、ビュティに笑いかける。




「じゃあ、あたしはそろそろ引っ込むわ。ちょっと出しゃばり過ぎちゃったし」
「首輪を嵌めたら、元のへっくんに戻るの?」
「御明察。あたしはイレギュラーな存在だからね。あんまり外に居るのも良くないし」




そう言って首輪を嵌め直そうとしたその時、ヘッポコ丸は「あ、そうそう」と何かを思い出したかのように再びビュティに目をやった。




「あたしのことは、くれぐれもこの子には内緒にしててね」




この子、と言ってヘッポコ丸は自身を指差した。




「へっくんに?」
「そ。誰だって知りたくないでしょ? 自分が知らない内に女になって大暴れしてるなんて」
「大暴れって自覚はあるんだ…」
「まぁ兎に角、このことはくれぐれも内密に、ね?」




シー、と唇に人差し指を当ててジェスチャーするヘッポコ丸。女の姿になっているからか、それとも元々が良いからか、やけにそれが様になっている。

ビュティはコクリと頷いた。約束は、交わされた。




「ありがとね、お嬢さん」




そう言って、ヘッポコ丸は今度こそ自身の首に首輪を巻いた。人格が入れ替わる、まさにその刹那。




「また、会いましょうね」










確かに、その言葉はビュティの耳に届いていた。








イレギュラー
(残り二つの人格、か…)
(ちょっと会ってみたいかもね)






SSSにアプするつもりだったのに思ったより長くなったのでここにアプ(^ω^) リアで言ってたあれです。とても楽しかったです。こんな人格でも良いんでね? 俺が書いたらギャグ要素欠片も無いけど← でもこれ漫画で描いた方が絶対良いよなぁ。ナイスバディへっくんハァハァ← 誰か描いてください(おいコラ)。


原作通りを意識しましたが、無理がありました。ボーボボと首領パッチ空気状態ってか一回も出てないしな(笑)。話の都合上出すに出せなかった。無念…!



栞葉 朱那

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