cry (オリジナル小説)

□3.5
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『死は、この世において最も不可思議な現象である。
何故其れが発生するのか、其れの後に何が起こるのか、何故生きる者は其れを恐れるのか。
探せば探すだけ疑問が湧き出てくる。
過去にその疑問を追い求め、そして一つの思想、そう、かのノウェイナ教を…』
「つまんね」
そういう話はオカルト雑誌にでも載せてくれ。
『生死の探求』をカウンターに放り出して、棚から適当に本を探す。
ん?
随分古そうなもんがあるな。
その本のような紙の束は、何とも形容し難い存在感を放っていた。
カバーが焼け焦げていて、タイトルが読み取れない。
「こりゃあ、当たりか?」
表紙を開くと、思った通りページが抜けていた。
無理矢理付け根から毟りとったような跡が残っている。
なんか、おかしいだろ、コレ。
嫌な予感もするが、好奇心はそれを無かった事にする。
ぱらりぱらりとめくって、ようやくちゃんと読めそうなページを見つけた。
『科学を理解する者は、とうに消え去り、今や人々は先人達の残した遺物に縋るのみである。
このままでは今ある遺産も、すぐに失われるであろう。
だからこそ、私は此処に書き残す。
それを、』
バチン
「つっ………!」
急激に現実に引き戻されると同時に、自分が何をされたのか理解する。
本を何者かに思いっ切り閉じられ、そこに手を挟んだのだ。
そんな事する奴あいつしかいない。
「もう、そんな物読んでるから、そうして罰が当たるんです」
「…閉じたのはお前だ。あと、そんなに読まれたく無いなら此処に置くなよ」
元修道女が首を傾げる。
「はて?」
「はて?、じゃねぇよ。客がこんなとこ置いといたら客が読んじまうかも知れねぇだろ?」
こんなとことは、カウンターの横に備えつけられている巨大本棚の事だ。
この店は、コイツが一人で経営している為、注文を出してから品が出来るまで割と時間がかかる。
その為の時間潰し、というつもりで置いた訳じゃ無いらしいが、客が勝手に暇潰しに使う事が多い。
つっても、この店に来る奴は、大抵暇を求めに来てる。
何より、店主が暇人だ。
俺にはさっぱりわからねぇが、そんな店主のキャラの受けは良く、そんな事もあってか、このちっぽけな店は『暇人の酒場』なんて愛称を貰う程度には有名だ。
賞賛なんだか、蔑みなんだか…
「あの、そうではなくて」
おっと、またまた現実に引き戻される。
思考が一人歩きしてた。
ん?
いっつも憎たらしく微笑んでる顔に、良く分からん表情が混じっている。
「そうではなくて、」
「なんだよ、何でもいいから言ってみろ。
何か変なんだろ?」
迷っているのか、笑顔が完全に消し去られた。
なんだよ、こいつらしくもない。
「…無いんです」
ぼそり、と一言。
何が?と聞き返す様な馬鹿なマネはしない。
それを口に出せるようになる迄まってやる。
「此処に、この本がある訳が無いんです。
私の部屋に鍵を掛けて保管していましたから」
「は?」
さすがに、聞きかえしてしまった。
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