mement mori (オリジナル小説)※現在更新停止中

□四
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霊は、時に人間には不可能な行動をとる。
その一つに、憑依というものがある。
憑依とは、例えるなら、霊という、殻をもっていないヤドカリが、人間という、殻をもっているヤドカリの殻の中に入り、殻を自分のものにする、といった感じだ。
しかし、この説明には、欠けている部分がある。
殻には一匹分のスペースしかない、ということだ。

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」
女性が苦しそうにうめく。
四肢は痙攣し、口から泡を吹き、それでも辛うじて意識を保っていた。
今なら簡単に殺せるように、一見見える。
しかし、追い詰められた人間は、以外と強い。
普段自分の体を守るため、無意識に掛けている力へのリミッターを、これまた無意識に解除してしまうからだ。
これを火事場の馬鹿力と呼ぶ。
さて、如何やって殺
…いや、人間の方を殺してどうする。
殺すべきは、その中の霊の方だ。
勘違いするな。
敵は霊なんだ。
人間じゃない。
人間の中で埋れているから、人間の汚れがよく見えるが、霊の中に埋れてみれば、違ってくる筈。
「命!惚けて居る場合か!!」
しまった。
気づいた時には、女性は視界から消えていた。
冷汗が頬をつたる。
心の奥の方で、もう一人の俺が嗤う
『ハハ、もう終わりだな命。せめて楽に死ねよ』と。
…いや、此処で死んで如何する。
やっと手掛かりが掴めたんだ。
そいつから手を離したくない。
逃げろ、全力で。
出た答えはそれだった。
景色が後ろに流れていく。
意外なほど早く。
まるで自分の足が、意思を持ったかのようだ。
もっと早く、生きる為に、もっと速く、死なない為に、もっと、…
転んだ。
痛みが体を支配した。
動けない、音すらしない。
頭でも打ったのか?
ハハ、笑えないな。
結局、一人で墓穴を掘って、勝手に自滅するのか。
ああ、見てる方からしたら、滑稽この上ないだろうな。
まるで、ギャグ漫画みたいな展開だな。
小悪党Cの命は此処で潰える。
ほら、敵が。
手が伸びてくる。
首に冷たい感覚。
きもちわるい。
首に力が、入れられているのがわかる。
首が、
首が、
くび、
く、
苦、
し、










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