mement mori (オリジナル小説)※現在更新停止中

□一
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霊の存在が、国際的に認められたのは、
多分西暦2108年のことだったと思う。
2108年2月10日、当時日本国科学長だった霧生真(きりゅうまこと)が、世界で初めて霊の存在を科学的に認識した。
この事実は、日本国が国民を混乱に陥れないために、
という理由で、隠蔽され、日本国は内密に、霊学省を建設。
省長は霧生真が当然選ばれた。
霧生真は、その後霊についての研究を、単独で進め、
その時手に入れた知識は、様々な技術に転用された。
しかし、霧生真はそれらの知識を、具体的に公表するのではなく、ただただ専業者に仕組みのわからない技術を、与えるだけだった。
その研究の様子は、霧生以外の霊学省の人間すら知らなかった。
技術を訝しみそれらを、解明することも諦め、放棄した業者も出て来た頃。
具体的には2115年4月1日、
霧生真は死んだ。
一応世間では、交通事故に遭い死亡した事になっているが、人々はそれを認めなかった。
なぜか?
2115年4月1日、その日を境に世界中の人間が、それ以降霊を目視する事が出来るようになったのである。
国はやむをえず、霊の存在と、霧生真についての
事を公表。
しかし、霧生真については、国は明らかにフィルターを通したとしか思えない説明を繰り返し、国民の反感を買った。
それから、十年。
その間、人間と霊は交流をし、霊学省は名を人霊間友好交流省に変え、新たな省長をたて、
人と霊の、窓口となった。
そして俺のような人種が生まれた。








<桐山駆霊所 居住スペース リビング>
少し大きめに作られた窓から朝日が差し込んでくる。
鳥は静かにさえずり、紅茶が湯気をたてる。
そんな、あまりにも爽やかな空間で、俺達は、
あまりにもくだらない言い争いをしていた。
「井上!人に女みたいなあだ名を付けるのはやめろ!
そんなに俺にトラウマを思い出させたいのか!?
それと岩崎‼俺のトーストの仇はお前のオムレツだっ‼
八兵衛!よくやった‼
郡山‼朝食の用意ご苦労様‼」
一通りツッコミ終えると、俺はグッタリと席についた。
「えぇ〜?そんな言い方酷いよ〜。
大体メイちゃんの場合、女顔は褒め言葉だって」
小学校の時からの幼馴染にして、桐山駆霊所(株)の社員、井上朋花は肩をすくめながら、平気で人のトラウマをほじくり返すような女だ。
さっきから話題にのぼっている俺のトラウマとは、
・・・いや、思い出したくも無いので、説明は省かせて頂く。
「逸れ以上言ったらお前の髪の毛引き千切るぞ」
「ぎゃ〜〜〜♪助けて〜〜岩崎ぃ〜♪」
井上は幼馴染その2である岩崎京介に助け?を求めたが、
「俺は〜♪奈良へ〜〜♪行くっぜ☆がっ‼
どうよ。八やん、俺の新曲!」
肝心の岩崎は現在八兵衛と通話中につき、電話にでられないんだze☆がっ‼だった。
「う〜む、最後のがっ‼に迫力が足らんなぁ〜。
そんな事では幕末は生き残れぬぞ」
俺にとって親のような存在の、幕末武士の霊、
蕎麦田八兵衛は、半透明の刀を抜いて、幕末の厳しさを表現しているように、見えなくもなかった。
「命様。食事中にアレな行為を行おうとするのはよして下さい」
この中では一番新入りの、郡山郁江は、とりあえず謎だらけな人物だった。
年齢は見たところ二十代前半。
何故か常に、メイドのコスプレをしていて、
何故か常に、マフィアの様なサングラスをかけている。
普段寡黙で、一日中眉一つ動かさないかとおもったら、たまにこういう勘違いをしたりする。
俺は井上を追いかけるのをやめ、とりあえず席についた。
何もツッコまないのは、言った所で無駄だからだ。
俺は既に(一部天然)ボケのカオスと化しているリビングに向けて、空咳を一つ。
場が静まる。
「八兵衛。ところで、仕事が来たんだってな」
「おぉ!すっかり忘れとったぞい。ぽすととやらにはいっておる」
八兵衛は霊なので実体がない、何故無いのか、詳しく説明すると、時間がかかるが、簡単に言うと、
霊とは、とある個人の精神が、その個人の死後、
一つに固まったもので、精神は実体がないので、霊も実体がない、となる。
ところで、何故そんな事を言い出したかというと、
実体がないと、手紙を拾うどころか、ポストすら開けられないからである。
「じ、じゃぁ、あたし取って来るよ」
さっきの負い目があるのか、井上が真っ先に志願した。
暫くして、
俺は井上から手紙を受け取り、読み上げた。
「えぇと、佐上駅内にて待つ。
・・・それしか書かれてないぞ。八兵衛、これは仕事じゃなくて、嫌がらせっていう・・・!!」
重要なのは、手紙の内容ではなく、その下にかいてある一文字だった。



確かにそう書かれていた。
「行くぞ!今すぐ」
それが一つ目の間違いだった。

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