オリジナル
□朝の蛍
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少し行くと、僕の住む街とはがらりと変わる。広い、広い田舎町に来た。ここだけ時代が一つ前のようだ。いくつもの田んぼと、まだ植えたばかりであろう稲が僕を迎え入れてくれた。
でも、今日はまた別の『人』が僕を迎えた。
「おはようございます」
「え」
「あ…」
一人の少女だった。小学校四年生くらいだろうか。きちんとそろった前髪、肩甲骨ほどに三編みされた黒髪。昭和のようなその少女は、僕が変な反応をしたからだろうか、肩をすくめた。
「ずいぶん早起きなんだね」
「うん…」
口数が少ない。沈黙が続く。話題を出そうと僕は口を開いたが、少女のほうが先だった。
「あのね」
「うん」
「蛍が見れるんだよ!」
元気に微笑んで少女は言った。