桔梗と龍
□涙雨
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「いってらっしゃい!」
私は玄関先で龍馬さんと以蔵の見送りに出ている。
ニコニコ笑いながら振り返る龍馬さんと、振り返らず真っ直ぐ歩く以蔵。
「さぁて、今日は何しようかな。」
おシゲさんのお手伝いでもしようかな?と思いながら部屋に戻ろうと廊下を歩いていたら、角から武市さんが現れる。
「おや、龍馬たちは行ってしまいましたか?」
「はい、たったいま行かれましたよ。って、あれ?いつ帰ってきたんですか?」
さっきまで私たちが玄関にいたのに!
「僕もつい今しがたです。裏口から入ったので気が付かなかったのでしょう。」
「そうだったんですか!後を追わなくていいんですか?」
「ああ。以蔵もついているし、大丈夫だ。」
フワリと笑う武市さん。
武市さん、普段はすごく厳しい顔してるから、笑うとすごく優しい表情になるなぁ。
「僕の顔に何かついてるかい?」
不思議そうな顔になる武市さん。
「あ、いえいえ!すみません!」
私は焦って両手を広げて胸の前で左右にブンブン振る。
「そういえば慎ちゃんはどこに行ったんですか?」
「中岡なら台所にいるよ。僕と一緒に帰ってきたのだけれど、腹が減ったと言っていたからね。」
ここまで話をして武市さんがふと考える。
「千春さん。」
「はい?」
「繕いものなど出来ますか?」