桔梗と龍
□想いと嫉妬
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「鈴、洗濯物を運んでおくない。」
「わかりました。」
女将に洗濯物を渡され、うちは各部屋に洗濯物を置きに歩く。
襖戸が開かれたままの千春ちゃんの部屋の前を通りかかったとき、机の上に太陽の光を受けて輝く青と赤のびいどろが目に入った。
(あれは・・・!)
以前、坂本はんの部屋を掃除した時にあった物と同じびいどろ。
(千春ちゃんにあげたんや。)
2つ並ぶびいどろは、寄り添う2人を連想させ、私は唇を噛み締める。
坂本はんに羽織りをかけていたいつの日かの千春ちゃんの表情は恋するおなごの顔やった。
ギュッと握った拳に爪が食い込む。
そしてその時の2人の姿を見て寂しげな顔をする高杉はん。
高杉はんにまであんな顔させるなんて・・・。
突然現れた女が、いとも簡単に男達の心を奪うのが悔しくて、イライラする。
うちはずっと、ずっと坂本はんが好きやった。
でも、千春ちゃんが現れてから坂本はんは今まで見たことのない顔で千春ちゃんに接して、明らかに様子も違ってきた。
それが悔しくて悔しくて、坂本はんの襟を直すふりをして抱き合ってるように見せたけど・・・。
握っていた拳をゆるめ手のひらを見ると、爪が食い込んでいた部分が赤くなっている。
縁側で千春ちゃんにうちの気持ちを話した時は、言い過ぎたかと心を痛めた。
それが原因で寺田屋を飛び出したとわかった時は、少なからずも責任を感じたけど、血相を変えて飛び出す坂本はんや高杉はんを見て、うちはまた嫉妬して・・・。
ハァッと溜め息をついてから最後の洗濯物を部屋に置いて庭の掃き掃除をしなくちゃと踵を返したとき、
「鈴さん。」
名を呼ばれて足を止めた。