群青の空に舞う蝶
□閑話其ノ十
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「晋作さん、お薬ですよ」
風呂に入って部屋で本を読みながらくつろいでいると千夏がやってきた。
千夏も湯上がりなのか浴衣一枚と薄着だ。
……こんな夜更けにそのような薄着で男の部屋に入ってくるなど、こいつには危機感というものがないのか。
否、それだけ俺が信用されていると前向きに考えるか。
パタンと手元の本を閉じると千夏はニコニコ笑いながら薬の用意をはじめた。
神社も見つかったんだ。
きっともう少し探ればきっとあいつの元の世への帰り道はわかるだろう。
だが…。
それが出来ない俺がいる。
最初は俺の労咳がうつってはいけないと必死だったが、小五郎からあいつは感染する可能性は無いと理由を聞いて愕然とした。
衝撃は受けたが…、やはりあいつは未来から来たのだと確信させられてしまって…。
俺は千夏の前では荒ぶる強い男でありたいと思っている。
だから…この身が床に伏せたきりになる前に帰すべきなのだが…
そもそもこいつはどう思っているんだ?
俺を想ってくれているのはよくわかる。
だが、それと元の世に帰りたいと思う気持ちは別だと思っていた。
それなのに帰りたいとも言わず、あれ以来あの神社の所に行こうとも言わない。
よく考えれば神社探しをしている時からこいつの様子はおかしかった。
もしかして……。
一つの期待にたどり着いたが、俺は薄く笑いながら目を伏せた。
「さ、晋作さん。飲んでください」
差し出された薬を見て俺はため息を吐き出す。
「あー…。これ苦いんだよなぁ」
「ちゃんと飲んでくださいね」
こうして千夏と共にいれる時間は後どれくらい許されるのだろう…。
「千夏」
「何ですか?」
屈託のない笑顔の千夏に俺はニヤリと笑うと
「飲まん」
と薬を突っ返した。
「何言ってるんですか!飲まなくちゃダメですよ!!」
「それじゃあ…」
俺は千夏の膝の上に頭を乗せて寝転がる。
「お前が飲ませてくれ」
「なっ……!」
下から見上げた千夏の顔がみるみるうちに赤く染まり、まばたきの回数も増えた。
「ほら、早くしないと俺はいつまでも飲まんぞ」
「〜〜〜っ」
すると千夏は観念したのか薬を口に含むとその後に水も含んだ。
なんだかんだ言っても俺の願いをきいてくれる事が嬉しくて…
赤く染まった頬と少し潤む瞳で顔を寄せてくる千夏が愛しくて愛しくて、柔らかな唇が重なる直前に俺は目を閉じた。
苦い苦い薬も千夏の口移しだと甘いものになる。
口の中に流し込まれた薬を飲み込むとゆっくり唇が離れていき、それを逃がさないとばかりに体を少し起こして下から千夏の唇に自分の唇を押しあてた。
許されるだけお前と共にありたい。
許されるだけお前に甘えていたい。
少しはにかんだ笑顔の千夏を見て、俺はまた膝の上に頭を乗せると細く華奢な腰に腕をまわして目を閉じた。
→月下美人