群青の空に舞う蝶
□忍び寄る闇
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「よし、今日はこれでいいかな」
低めにお団子を作ると最後にバランスを見ながら簪をさして鏡の前で確認をする。
桂さんに結ってもらった島田髷は維持が私には無理そうだったから、自分なりに髪型をアレンジして出来るだけ晋作さんに貰った簪を身につけるようにしていた。
(髪の毛伸ばしててよかったな)
今までは剣道をするのに中途半端な長さだと邪魔だからって理由で伸ばしてたけど、伸ばしてきて良かったと鏡の中の自分に微笑みかけた。
「桂さん、おはようございます」
台所に降りると朝食の準備をしていた桂さんに挨拶をする。
「おはよう。おや、今日はその簪をつけたんだね」
似合いますよ、と桂さんに誉められると私は少し照れながら野菜を刻むために包丁を握った。
「例の寺はまだ手掛かり無しですか?」
桂さんの問いかけに野菜を刻んでいた手が止まってしまった。
例の寺…。
それは私がこの世界にきたきっかけのお寺の事。
暇を見ては晋作さんが探しに連れていってくれるけど、全く手掛かりらしきものはなくて。
「はい…何も…」
そう答えると再び野菜を刻み始める。
見つからないもどかしさと、見つからなければいいのにと思う気持ちが入り交じり正直なところかなり複雑だった…。
この日も夕方に手が空いた晋作さんとお寺探しに出ていた。
「ここも違う…か」
ふぅ、と一息ついた晋作さんは少し休むかと言って、お寺の真向かいにある茶屋の軒先の長椅子に腰を下ろした。
運ばれてきたお茶を啜りながら
「そうですね」
と私が笑顔で答えた瞬間。
「――――っ、ゴホッゴホッ!」
突然晋作さんが口に手をあて激しく咳き込みはじめた。
「しっ、晋作さん!?」
私は慌てて背中をさすると、苦しそうにしていた晋作さんが笑顔を見せる。
「…すまん。茶が気道に入ったようだ」
コホコホと咳き込む晋作さんの背中をさすりながら「焦らずゆっくり飲んでください」と笑った。